オブザーバビリティのNew Relicが発表した新機能についてCTOに詳細を訊く

オブザーバビリティのNew Relicが新機能に関するメディア向け説明会を2025年3月19日に都内で開催した。併せてNew Relic株式会社のCTO松本大樹氏に、個別インタビューを実施した。ここでは主にインタビューでの質疑応答を紹介する。
今回は大きく分けて2つの新機能が紹介されました。AIを使ってオブザーバビリティによる問題解決を高速化することと、動画配信におけるオブザーバビリティです。AIを使って効果を出すというのは多くのベンダーが目指しているところでNew Relicもその流れに従っている、というかリードしているということは理解しました。ストリーミングについては多くの場合、CDNを使うことになると思いますが、その場合、CDNのダッシュボードだけではなくNew Relicを使う意味を教えてください。
松本:問題解決にAIを使うというのは、システムに問題が発生した際の初動対応にAIを使うというものです。これまではバラバラのツールを使いこなさないと効果的に初動対応ができなかったものを、過去のデータから予測してAIが対応を提示するという機能になります。
ストリーミングのオブザーバビリティに関しては確かにCDNを使ったシステムであればCDNのダッシュボードで観測することは可能ですが、その場合はキャッシュがヒットしているかどうか、というデータだけが可視化されることになります。でもこれはクラスターの死活管理とあまり変わらないレベルの情報でしかないんです。キャッシュにヒットしてなかったらCDNのインスタンスをグレードアップするか数を増やすということになりますが、それで本当にそのアプリケーション全体の価値を上げられるのかは、やってみないとわからないという状況だと思います。しかしNew Relicのソリューションでは、動画を再生する端末からバックエンドのアプリケーションまで観測できるというのが違う点ですね。そうすれば単にCDNのキャッシュのせいなのか、それとも他に問題があるのかまで可視化できます。
つまりエージェントを使うことで単なるCDNのダッシュボード以上の分析ができるようになるわけですね。
松本:そうです。それに加えてCDNのログを取り込むことで、より詳細な分析が可能になります。エンドツーエンドでサーバーのアプリケーションからCDN、そしてエンドポイントのデバイスまで包括的なオブザーバビリティを実現できます。
オブザーバビリティはシンプルなログの分析からエージェントを使うことでより詳細なメトリクスやトレーシングが取れるように進化してきました。アプリケーションのコードまで観測して分析するApplication Performance Monitoring(APM)はNew Relicが得意な領域ですが、多くのエンタープライズの運用部門はオブザーバビリティによって新しい問題に直面していると感じています。それがデータの巨大化による管理工数の増大と、オブザーバビリティを使うことに対するコストの増加だと思います。それについてNew Relicとしての対策は?
松本:オブザーバビリティによって発生するデータは確かに巨大化しています。監視する対象が増えればデータは増加しますし、クラウドネイティブなシステムであれば増加する傾向は明らかですね。New Relicのようにクラウドサービスが選ばれるのは、そうした増大するデータの管理を避けたいという発想が大きな要因になっています。
個人的にはシステムのログがデータ量増大の大きな原因なのではないかと思います。非構造化データで圧縮したとしても限界がありますし、保存を始めたらどこまでもその保存を続けなければいけないという発想になりがちですし。いっそのことログを見るという考えを捨ててメトリクスとトレーシングに特化してシステムの挙動を把握する、ログは最後の手段として優先順位を下げるといったドラスティックな方法論が必要なのではないですか?
松本:ログというのはITシステムにおいて最初に遭遇するシステムの挙動に関するデータなので、どうしてもログを出発点にしがちなんですよね。私もHPの頃はシステムのエラーログを見てそこからエラーの番号を引っ張ってきてその意味を知るということをやってましたから。でもNew Relicのシステムはログが出発点ではないんですよ。さまざまなシステムの状態を表すデータを可視化して、変化について理解する、最後にログを見て原因を確認する、という発想ですから。ログを重要視する人たちというのは確かに存在していて、ログを重要視するオブザーバビリティを揶揄する感じで「ログザーバビリティ(Logservability)」みたいな呼び方をする場合もありますね(笑)。ログは全部を保存しないで障害発生時のサマリーだけを取っておくという方法もありますが、なかなか勇気が出ないんでしょうね。正常時のログはそもそも要らないはずですし。
ログが重要視されないようになれば、ログデータの長期間保存という無駄なことも減るでしょうし、ログデータ保存に掛かるコストも圧縮されると思います。とあるオブザーバビリティのユーザーがコストについて、1ヶ月間連続してインスタンスを消費するような場合ではなくキャンペーンなどのように1週間だけ集中してシステムを集中的に使うような場合にコストが増加してしまうということが問題視されていることを教えてくれました。これは1週間だけキャンペーンのためのパブリッククラウドのインスタンスを立ち上げてアクセスが普段の数倍になるような場合に、その1週間のためにオブザーバビリティにかかる月次のコストが数倍になってしまうという状況です。そのような場合にはそれは別枠で計算してもらえないか? という悲痛な叫びだと感じました。
松本:New Relicであればそのような突発的なピークが来てもそれが1週間で終わるのであれば、コストは増えない仕組みになっています。これは3ヶ月という期間内でピークが定常化してないことを確認できれば変化しないという話ですね。もちろん、増加が定常化するのであればそのコストは負担していただくことになりますが、これは弊社の営業がコストに関して必ず説明する項目ですので、コストに関する弊社の仕組みは良くできていると思います。
その3ヶ月の猶予で突発なのか定常的なのか判断するというのは、パブリッククラウドでの利用が増えてきたからそうなったのか、それとも始めからそういう仕組みなのか、どっちですか?
松本:これはNew Relicの最初からそういう仕組みになっています。
AIはオブザーバビリティをやっているベンダーがかなり強力に推している機能ですが、New Relicの強みは何ですか?
松本:New RelicがSaaSとしてすべててのデータを手元において処理できることでしょうね。
企業がオブザーバビリティに注目して始めようとすると、通常はオープンソースのオブザーバビリティツールを使うというのが王道だと思いますが、実際にやってみるとオンプレミスで管理しなければいけないデータが多過ぎるというのがすぐに顕在化する問題点だと思います。New Relicの場合は最初からサービスとしてNew Relicのデータベースにすべてを格納する方式ですよね。それがAIの時代にマッチしているわけですね。
オブザーバビリティにおけるAIの活用は、エラーメッセージを解説させるような使い方から原因究明のための推論、さらにシステムの構成変更を提案するような使い方まで、オブザーバビリティ各社がしのぎを削って開発を急いでいると言う状況だ。New RelicだけではなくGrafana LabsもDatadogもDynatraceもAIを使って自社サービスの差別化に奔走しているといえる。
今回、New Relicが2025年3月19日にリリースした内容については、以下から参照して欲しい。
●参考:
New Relic、プラットフォームの隅々までAIで強化されたイノベーションを実現し、進化したインテリジェントオブザーバビリティでエンタープライズビジネスを加速
New Relic、ServiceNowとの新たなエージェンティックAIインテグレーションを発表し、ビジネスのアップタイムの向上を支援
New Relic、優れたデジタルエクスペリエンスを実現する業界初のストリーミングビデオ向けインテリジェントオブザーバビリティソリューションを発表
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