KubeCon Europe 2025、Dash0のCTOにインタビュー。野心的な機能の一部を紹介

2025年6月26日(木)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
KubeCon Europe 2025の会場にて、Dash0のCTOにインタビューを実施。野心的な機能の一部を解説してもらった。

KubeCon Europe 2025の会場にて、新興ベンダーDash0の共同創業者兼CTOのBen Blackmore氏にインタビューを行った。今回はその内容をお届けする。Dash0は今回のカンファレンスに初めてスポンサーとして参加し、ショーケースでは大き目のブースで出展していたオブザーバービリティのベンチャーだ。クラウドベースのオブザーバービリティベンダーはNew Relic、Datadog、Dynatraceなどすでに多数存在するが、Dash0はその中でもOpenTelemetryに100%コミットしている点がユニークと言える。Blackmore氏はDash0の前にもオブザーバービリティのベンチャーInstanaの社員であった経歴を持つが、同社が2020年にIBMによって買収されたのちに退社して、Dash0を立ち上げたという経緯を持っている。

会場内でインタビューに応えてくれたDash0のCTO、Ben Blackmore氏

会場内でインタビューに応えてくれたDash0のCTO、Ben Blackmore氏

最初に自己紹介をお願いします。

Ben:私はDash0のCTOで、元Instanaの創業メンバーだったMirko Novakovicとともに創業メンバーとして働いています。MirkoはDash0のCEOですね。Dash0は創業して2年の若い会社です。Instanaの元社員はまだIBMで働いている人もいますし、別の領域に行った人もいますが、もう一度、オブザーバービリティをやろうと思い立ったわけです。その理由はInstanaが買収されてからオブザーバービリティの領域にはOpenTelemetryという大きな波が来ていたわけですが、注目され使われていたにも関わらず、あまり進捗がなかったことを目にしたからです。OpenTelemetryのエコシステムは数年前とあまり変わっていなかった。だから今度はOpenTelemetryベースでオブザーバービリティをやろうと思い立ったというわけです。

ジョブボードにも「Dash0 Loves OpenTelemetry」という手書きでOpenTelemetry推しをアピール

ジョブボードにも「Dash0 Loves OpenTelemetry」という手書きでOpenTelemetry推しをアピール

Dash0は若い会社ですが、InstanaがIBMに買収された後に、IBMを退職してDash0を立ち上げたということですね?

Ben:そうです。OpenTelemetryをベースにしてシンプルなオブザーバービリティを実現したいという思いから、ビジネスを立ち上げるということに挑戦したわけです。会社の登記はアメリカですが、社員は主にヨーロッパに住んでいるエンジニアで構成されています。主な社員はドイツ在住のエンジニアですね。私もドイツから来ました。全員で35名という小さな会社です。

今回は大き目のブースでブースの説明をしているエンジニアが赤いジャンプスーツを着ていたことでとても目立っていましたよね。今回のカンファレンスで全社員が集まったという感じですか?

Dash0のブースを背に。説明員は全員赤いジャンプスーツ姿だった

Dash0のブースを背に。説明員は全員赤いジャンプスーツ姿だった

Ben:そうですね。今回は全員集まっているので、会社のオフサイトミーティングと言っても良いかもしれません(笑)。

オブザーバービリティのベンダーはSaaSベースのNew RelicやDatadog、そしてDynatraceなどが日本でも活動しています。Grafana Labsもこれから日本市場に来ようとしています。レガシーなオブザーバービリティだとZabbixも日本には大きなユーザーベースを持っています。Dash0の差別化のポイントは何ですか?

Ben:Dash0はオブザーバービリティをもっとシンプルに、そして価値を生み出すためのものにしたいと思っています。それは具体的に何か? と言えば、オブザーバービリティのための大量のデータからより多くの価値を生み出すことを目指している点です。オブザーバービリティを始めてすぐに気が付くのは、大量のデータが必要になることです。つまりログやメトリクス、トレースなどを大量に蓄積することで、システムに何が起こっているのかを知ることができ、対策が可能になるわけです。しかし大量のデータが集まりますので、データの管理をしなければいけなくなります。しかしすべてのデータが必ずしも必要ということではありません。

オンプレミスでオブザーバービリティを始めた企業がクラウドに移行する大きな理由の一つが、大量のデータを管理したくないということだと聞いていますが、それと同じ話ですね?

Ben:背景としては同じですね。しかし実際にクラウドにデータを移行して管理自体は楽になったとしても、次の問題が起こります。それはオブザーバービリティのために巨額のコストが必要になることです。現実のシステムでは大量のデータを保管するためにはクラウドベンダーが指定する単位、例えばログメッセージのデータサイズなどによって単価が決定され、その結果としてコストが積み上がっていくわけです。しかしシステムの運用管理を行っているエンジニアにとってログメッセージがどのくらいのサイズになるか? ということを事前に計画することは非常に難しいと思います。

つまりさまざまなアプリケーションからミドルウェア、OSなどが組み合わさったシステムにおいて、意味のあるログのデータ量を想定するというのは結構難しいんですよ。そしてメッセージも何かのエラーで1つだけメッセージが出るわけではなく、関連するメッセージが大量に発生します。そこからもサイズを想定するのは難しいわけです。Dash0はサイズではなく、シンプルにログメッセージ数で課金を行う方針です。そのほうがシンプルでわかりやすいですよね?

そうですね。データの通信量、ディスク使用量ではなく数で課金ということですね。Grafana LabsのCTOに取材した時に「ログデータが非構造化データであることが大規模言語モデルには向いていなかったので、途中でそれまで開発していたコードを全部捨ててやり直した」と言っていました。ログをベースにしてオブザーバービリティに生成AIを使うことの難しさを説明してくれました。でもログはハードウェアからソフトウェアまで多くのエンジニアが頼りにしているデータソースだと思いますが。

Ben:ログに限らずオブザーバービリティではデータが大量に発生しますが、そのデータは本当にオブザーバービリティのためになっているのか? という質問を、ユーザーは自身を振り返って考えてみるべきだと思います。つまりデータはありますが、そのデータが本当にシステムの現状を理解するために必要なのか? ということです。それについて、Dash0は野心的な機能を追加しています。

それはなんですか?

Ben:大量に発生したオブザーバービリティデータに対して後から見直してみたら必要がなかったという事態は良く発生します。つまり保存はしたけど使われなかったデータですね。それを不要なモノとして除外する機能があります。これはオブザーバービリティデータの一部をSpamとして不要なモノと見做す機能です。実際に使ってみたら、データを保存する必要はなかったのに保存したことでコストが発生するわけです。それを「このデータは要らない」というように設定することで、コストを下げられます。

それは結構、チャレンジングというか冒険に近い機能だと思います。

Ben:そうですね。でも我々は若い会社で、大きなユーザーベースを持つ他社とは違うわけです。すでに多数のユーザーを抱える企業であれば、そんなことをすれば売上が減ってしまう! と慌てるかもしれません。しかし我々はチャレンジすることを選びました。もちろん、我々のユーザーが使っている機能について大きな変更をする場合には慎重になりますが、チャレンジしてダメなら別の方法を考えるという柔軟な発想で開発を行っているというわけです。

Dash0のCTOとして短い時間ながら的確に要点を解説してくれたインタビューとなった。OpenTelemetryネイティブであること、オープンソースを最優先しながらシンプルな実装を目指すこと、課金に対する野心的な機能開発を行っていることなど、従来のクラウドベースのオブザーバービリティにおいてはブラックボックス的な部分に切り込んでいくDash0の未来が楽しみである。ちなみにIBM/Instanaの時代に日本企業とは接していたということで日本でのビジネスにも経験があることを強調していた。社員の多くがヨーロッパ出身ということで、ヨーロッパではこれから存在感を増していくだろう。北米とアジアについては今後に期待したい。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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