日本の緯度経度を表す基準「Tokyo測地系」と「JGD2011測地系」について学ぼう

はじめに
今回は、前回に引き続き、MySQLの「ST_SPATIAL_REFERENCE_SYSTEMS」テーブルを眺めながら、日本の古い測地系と現在の測地系との違いを見比べてみます。
2002年の衝撃
2002年に、それまで日本国内の緯度経度などを表す基準として使われていた「日本測地系(別名Tokyo測地系)」から「世界測地系(別名JGD2000)」への変更が行われました。私が地理情報に深く関心を持つ前の出来事ですが、この変更は喩えて言えば、気温や実験データなどの膨大な記録を摂氏を単位として行っていたところに、突然華氏を使用することにすると決まったようなものですから、それはそれは大騒ぎだったことは想像に難くありません。
変更されたのは「地球のモデル」
地球の形は第3回で説明したように、地球の重心を中心とした回転楕円体をモデルとして表すことにしています。Tokyo測地系では、このモデルを作成する際にアジア東部の曲面に合うようにモデルが設定されました。そのため、この測地系に基づいて日本の地図を作成する場合には正確なものではありましたが、遠く離れた、例えばイギリスやブラジルのほうでは、実際の地表面よりもかなり浮いた場所に楕円体表面が来てしまうという問題がありました。このモデルは「ベッセル楕円体」と呼ばれます。私ぐらいの世代だと学校で習った記憶がありますが、皆さんはどうでしょうか。
これを解消し、同じ測地系で世界全体を正しく表せるようにしようと作成されたのが「GRS 1980」という楕円体モデルを使ったJGD2000です。
MySQLで測地系の定義を見てみる
それでは、MySQLでこれらの測地系がどのように定義されているのかを見てみましょう。ST_SPATIAL_REFERENCE_SYSTEMSからSRS_IDが4301(Tokyo測地系)、4612(JGD2000)のものを取得し、DEFINITION列の値を加工成形すると以下のようになります。
●Tokyo測地系GEOGCS[
"Tokyo",
DATUM[
"Tokyo",
SPHEROID[
"Bessel 1841",
6377397.155,
299.1528128,
],
TOWGS84[-147,506,687,0,0,0,0],
],
PRIMEM[
"Greenwich", 0,
],
UNIT[
"degree",
0.017453292519943278,
],
AXIS["Lat",NORTH],
AXIS["Lon",EAST],
AUTHORITY["EPSG","4301"]
]
●JGD2000
GEOGCS[
"JGD2000",
DATUM[
"Japanese Geodetic Datum 2000",
SPHEROID[
"GRS 1980",
6378137,
298.257222101
],
TOWGS84[0,0,0,0,0,0,0],
],
PRIMEM[
"Greenwich",0,
],
UNIT[
"degree",
0.017453292519943278
],
AXIS["Lat",NORTH],
AXIS["Lon",EAST],
AUTHORITY["EPSG","4612"]
]
まず、SPHEROIDに着目すると、Tokyo測地系では "Bessel 1841" という楕円体(ベッセル楕円体)、JGD2000では "GRS 1980" という楕円体を使っていることが分かります。長半径はJGD2000のほうがTokyo測地系よりも740mほど大きくなっていますね。扁平率はTokyoのほうが大きく、つまり真球に少しだけ近かったことが分かります。
TOWGS84は他の測地系への変換パラメタです。米国が決めている「WGS84」という、世界中で事実上の標準のように使用されている測地系への変換方法を示しています。測地系間の変換操作は(内部で)WGS84を経由して行われます。各方向への平行移動、回転、拡大率を7つのパラメタで表します。
JGD2000ではすべてのパラメタがゼロになっており、データを扱う上での数値上はJGD2000とWGS84は同じであることを示しています。実務上では、(あまり品の良くない行動ではあるのですが)JGD2000で公開されている緯度経度値をそのままWGS84の値と見做して取り扱っているケースもありますが、それはこのTOWGS84パラメタを見て、事実上同一視しても差し支えないことから来ています(変換しても同じ移動経度の数字になる)。
Tokyo測地系とJGD2000の違いを表にまとめました。
| 名称 | Tokyo測地系 | JGD2000 |
|---|---|---|
| 楕円体名 | Bessel 1841 | GRS 1980 |
| 長半径 | 6377397.155 | 6378137 |
| 扁平率 | 299.1528128 | 298.2572221 |
| WGS84変換パラメタ | [-147,506,687,0,0,0,0] | [0,0,0,0,0,0,0] |
| 本初子午線 | "Greenwich", 0 | "Greenwich", 0 |
Tokyo測地系からJGD2011への移行に当たって、数値が大きく変化しました。分かりやすいのが西脇市にある「日本のへそ」です。ここには「北緯35度、東経135度」という気持ちの良いキリ番のポイント(経緯度交差点)があり、モニュメントが造られています。
Tokyo測地系の35-135ポイントは「大正のへそ」、JGD2000になってからのそれは「平成のへそ」と呼ばれています。大正のへそは橋の北側、線路の近くにあります。
一方の平成のへそは、科学館の近くの丘の上にあります。ゼビウスのソルのようなものが4本立っている、あの中央です。
この2つの「35-135ポイント」間の距離を地理院地図を使って求めてみると、436mと計測されました。つまりこれは「北緯35度、東経135度ですよ」というデータを受け取ったときに、それが昔のTokyo測地系で表されたものだった場合に本来は地図左上のポイント(大正のへそ)の位置を表したものだったのに、右下のポイント(平成のポイント)の場所だと誤認してしまうことになります。地図上で思った場所と違う場所に表示されることになり、これは大事件です。本稿冒頭で「摂氏と華氏」の例を出しましたが、それと同様に、この緯度経度はどの測地系で表したものかの単位を正しく認識して使うことの大切さが分かります。
注:地理院地図を元に筆者が加工
なお「平成のへそ」が制定されたのは1990年なので、少し詳しい人は「JGD2000が制定される前なのに、JGD2000での35-135ポイントが決定されるなんておかしいぞ」と気づかれたかと思います。
実は1990年に行われた測量はGPSを利用したものでした。GPSではWGS84測地系を使用するので、本文で紹介したようにJGD2000と数字の上で同一視することができます。本コラムでは便宜上、この点をJGD2000の35-135ポイントとして紹介しました。
「平成のへそ」は、JGD2000が制定されるよりも10年以上も前に世界測地系に対応していた、最先端ポイントと言えるかもしれません。
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