ClickHouseがミートアップ開催。最新情報やPOSデータ分析のユースケースなどを紹介

2025年10月30日(木)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
ClickHouseが都内でミートアップを開催し、最新情報やPOSデータ分析のユースケースなどが紹介された。

カラム指向データベースで高速なリアルタイム分析を可能にするオープンソースソフトウェアとクラウドサービスを展開するClickHouseが、都内でミートアップを開催した。それに合わせて来日したVP of Product and MarketingのTanya Bragin氏にインタビューを行った。この稿ではミートアップの内容を紹介し、別稿でBragin氏のインタビューを紹介する。

ミートアップは2025年7月19日夕刻に都内にて行われ、約30名程度の参加者に対してBragin氏のプレゼンテーション、続いて株式会社永産システム開発 代表取締役の生方 守氏によるPOSデータ分析システムのユースケース解説、MQTTとAIを使ってIoT関連のシステムを開発するEMQのエンジニア、孫セイ氏によるIoTデータの分析にClickHouseを使うシステムの概要とMCPサーバーを使ったデモなどが行われた。

ClickHouseを概観するプレゼンテーション

最初にBragin氏が2025年5月29日にサンフランシスコで初めて開催されたOpenHouseと呼ばれるカンファレンスについて紹介した。このプレゼンテーションはClickHouseの最新情報とともに、ClickHouseを知らない参加者へのイントロダクションとなるように構成されていた。前半でClickHouseの歴史と概要、そこから最新のアップデートを紹介するプレゼンテーションとなった。

OpenHouseと呼ばれるカンファレンスを紹介するBragin氏

OpenHouseと呼ばれるカンファレンスを紹介するBragin氏

ClickHouseの歴史についても解説。2009年に最初のプロトタイプを公開、2016年にオープンソースソフトウェアとして公開、2021年にアメリカでの創業、2022年にクラウドサービスとしてのClickHouse Cloudの提供と続き、2025年に初めてのカンファレンスであるOpenHouseが開かれたことを説明している。

ClickHouseの歴史を紹介。クラウドサービスは2022年から

ClickHouseの歴史を紹介。クラウドサービスは2022年から

ClickHouseについては2025年3月に公開した以下の記事でも紹介しているので参考にして欲しい。

●参考:ClickHouseを使ったデータレイクの概要を解説する動画を紹介

ClickHouseのオープンソースソフトウェアに対するGitHubのスターの推移や顧客ベースなどを紹介した後に、ClickHouseが高速であることの技術的背景のひとつとして演算を行うComputeとデータを保全するStorageの分離について解説。

ストレージと演算を分離することで高速化と巨大データ処理に最適化

ストレージと演算を分離することで高速化と巨大データ処理に最適化

ComputeとStorageの分離は、大量データを処理するシステムを実装する際には有効なアーキテクチャーだ。

クラスターの中でデータを共有するシステムには有効なアーキテクチャー

クラスターの中でデータを共有するシステムには有効なアーキテクチャー

続けてオープンソースとして出発したClickHouseと、クラウドサービスとして後から提供されたClickHouse Cloudとの比較を解説。ここでは基本的な機能はオープンソース版と変らないが、ComputeとStorageの分離やセキュリティやバックアップなどはクラウドサービスに限定された機能であることを示している。

OSS版とクラウドサービスとの機能比較。多くの機能がクラウドサービス限定だ

OSS版とクラウドサービスとの機能比較。多くの機能がクラウドサービス限定だ

これについてはBragin氏の前職であるElasticでの経験が活かされており、それについてはインタビューを参照されたい。

また社外に持ち出したくないデータを分析したいというニーズにはBYOC(Bring Your Own Cloud)という選択肢もあるとして、コントロールプレーンはClickHouse Cloud、データ処理は顧客側が用意したクラウドを使うという処理形態も紹介。エンタープライズ企業のニーズをよく理解していることが見て取れる。

BYOCも構成できるClickHouse Cloud

BYOCも構成できるClickHouse Cloud

ClickHouseと他のシステムの連携についてはClickPipeという機能を紹介。PostgreSQLやMySQLなどをデータソースとして使うことや、Grafanaなどのオブザーバビリティツールとの連携もこのClickPipeによって可能になる。但しClickPipeはClickHouse Cloudに限定された機能であると注意書きがある。

その他にもSQLデータベースとの連携やJSONデータのネイティブサポートなどが解説された。

JSONデータをネイティブでサポート

JSONデータをネイティブでサポート

ここではElasticsearchやMongoDB、PostgreSQLなどとの性能比較がグラフを使って紹介されている。グラフのトップ2はClickHouse、最下位はPostgreSQLであることがわかる。

次のトピックはオブザーバビリティの中で分析エンジンとしてClickHouseを使うという機能の紹介だ。

NetflixやWalmart、COMCASTなど錚々たるエンタープライズがオブザーバビリティに利用

NetflixやWalmart、COMCASTなど錚々たるエンタープライズがオブザーバビリティに利用

そしてオブザーバビリティのためのソフトウェアスタックがオープンソースで構成されていることを紹介。ここで紹介されているオブザーバビリティのためのツールHyperDXは、ClickHouseが2025年3月に買収を発表した新興のオブザーバビリティベンダーが開発したソフトウェアで、高速性と低コスト(比較対象はDatadogやNew Relic)を売りにしている。分析のコアとなるデータストアとしてClickHouseを使っていたことが発端となって、お互いが一緒になる選択をしたという。

オブザーバビリティのデータ分析エンジンとしてClickHouseを使う

オブザーバビリティのデータ分析エンジンとしてClickHouseを使う

ClickHouseの使い方としてデータウェアハウスの中核、及びデータレイクとして使う方法についても解説。ここではTPC-Hのベンチマークを使って2つのバージョンの処理速度を比較し、20倍以上高速になったことを説明した。

ClickHouseの24.12というバージョンと25.5の比較。20倍以上高速になったと解説

ClickHouseの24.12というバージョンと25.5の比較。20倍以上高速になったと解説

またクラスター内での分散キャッシュの実装を紹介。これはまだ開発中という機能になるが、Computeノードとストレージの間に分散キャッシュサービスを差し込んで高速なキャッシュをクラスター内部で共有することが可能になると説明した。

ClickHouse Cloudの新機能、分散キャッシュサービス

ClickHouse Cloudの新機能、分散キャッシュサービス

生成AIについてもAIをビジネスとして展開しているさまざまなベンダーが利用していることを説明した。

CONGITIV、Poolside、Weights &Biases等がClickHouseを使っていると紹介

CONGITIV、Poolside、Weights &Biases等がClickHouseを使っていると紹介

またClickHouse自社内のデータウェアハウスとしてAnthropicのモデルを使ったチャットサービスのバックエンドとして、MCPサーバー経由でClickHouseのデータを使う例を紹介。ここではClickHouse自身が生成AIを積極的に試用することで顧客のニーズを図ろうとする姿勢が垣間見えている。

ClickHouseの社内事例。生成AIのチャットからデータウェアハウスとしてClickHouseを使う例

ClickHouseの社内事例。生成AIのチャットからデータウェアハウスとしてClickHouseを使う例

POSデータ分析のユースケース

次に登壇した永産システム開発の生方氏は、顧客案件としてQlikViewを使って開発したPOSデータ分析システムにおいて、代替としてClickHouseのシステムを採用したことを解説。

QlikViewを使ったPOSデータ分析システムをClickHouseにリプレース

QlikViewを使ったPOSデータ分析システムをClickHouseにリプレース

現行のQlikViewからClickHouseに移行した要因は、QlikViewのライセンス費の増加とパフォーマンスの限界が見えたこと、実行するサーバーに対する要求が大きいことなどだと説明。

QlikViewからClickHouse移行の要因を解説

QlikViewからClickHouse移行の要因を解説

実際にベンチマークした結果についても解説を行い、QlikViewのメモリ512GB/コア数44に対してClickHouseはメモリ120GB/コア数30とより少ないリソースであっても、ClickHouseが遥かに高速に分析ジョブを実行できたことを紹介した。

QlikViewではタイムアウトしてしまうジョブもClickHouseでは実行可能

QlikViewではタイムアウトしてしまうジョブもClickHouseでは実行可能

このスライドではQlikViewが負荷なしの状態で測定しているが、ClickHouseは同時10アクセスという状態で測定されたことも示されており、ここでも性能に対する要求にClickHouseが応えていることを示している。

IoTシステムへのClickHouseの応用

次に登壇した孫氏はMQTTのブローカーであるEMQXについて紹介。IoTデバイスなどが利用するメッセージキュープロトコルであるMQTTを使ってデータ交換を行うストレージの部分にClickHouseを使うというプレゼンテーションだ。

MQTTとプラットフォームであるEMQXの紹介

MQTTとプラットフォームであるEMQXの紹介

そしてIoTメッセージングシステムの構成図を解説。デバイスとアプリケーションの中間にメッセージハブが存在する。

IoTメッセージングのシステム構成図を解説

IoTメッセージングのシステム構成図を解説

この構成図を、ClickHouseを中心に描き直したのが次のスライドだ。

Bragin氏のスライドの日本語版を使ってMQTTメッセージとClickHouseの関係を説明

Bragin氏のスライドの日本語版を使ってMQTTメッセージとClickHouseの関係を説明

そしてそれをEMQXの観点から描き起こしたのが次のスライドだ。

EMQXのクラスターからClickHouseにデータを送信してリアルタイム分析

EMQXのクラスターからClickHouseにデータを送信してリアルタイム分析

最近の流行ワードであるMCPを使って生成AIと連携するIoTメッセージングシステムの例を解説。

この後は実際にデモを行ってその動きを説明したかった孫氏だったが、施設内のWi-Fiとの接続が上手く行かずにやや残念なデモとなってしまった。しかしProof of Conceptとしては良い発想であり、参加者も注意力を切らすことなく説明に聞き入っていた。

平日の夕方から行われたミートアップは、約2時間半という短い時間の中で最新情報やユースケース、他ツールと比較、MCPと連携するデモなどが盛り込まれ、内容の濃い構成になっていた。参加者もプレゼンターに積極的に質問を行い、満足度が高い内容になったのではないだろうか。翌日に実施したBragin氏へのインタビューにおいても率直な回答をしてもらっており、Bragin氏、そしてClickHouseの真摯な姿勢が印象に残ったイベントとなった。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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データベースイベント
第1回

ClickHouseがミートアップ開催。最新情報やPOSデータ分析のユースケースなどを紹介

2025/10/30
ClickHouseが都内でミートアップを開催し、最新情報やPOSデータ分析のユースケースなどが紹介された。

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