Splunkのリードエバンジェリストに訊く Ciscoの一部であることの利点と欠点とは?

KubeCon+CloudNativeCon Japan 2025の会場でSplunkのリードエバンジェリストであるGreg Lefller氏にインタビューを行った。Lefller氏はeBayの広告部門でエンジニアとしてのキャリアをスタートさせた後、LinkedInでインフラストラクチャーのSREとしてチームを拡大し、その後、コンテンツ制作にも関わった後にSplunkに入社。2024年にCiscoがSplunkを買収した経緯で、現在はApplication Performance Monitoring(APM)のAppDynamicsも含めたオブザーバビリティプロダクトのエバンジェリストとして仕事をしているという経歴の持ち主だ。ちなみに大学では産業・組織心理学の修士課程を終え、母校であるOld Dominion Universityでアシスタントも勤めていたという。
自己紹介をお願いします。
Lefller:現在は、Splunkでデベロッパー向けのエバンジェリストとして仕事をしています。学生の時は産業組織心理学を学んでいましたが、もっとソフトウェアエンジニアとして仕事をしたいと思って最初はeBayの広告部門に入りました。その後、LinkedInでSREとして仕事をしてチームを大きく成長させることができました。LinkedInでの最後の仕事はソフトウェアエンジニア向けのコンテンツを制作する仕事でしたね。ここでは動画も作っていたので、見たことがある人がいるかもしれません。
現在はオブザーバビリティが熱い状況ですが、SplunkがNew RelicやDatadog、Dynatraceなどと差別化できるところは何ですか? 他にもAkamaiやCloudflareなどのCDNベンダーもセキュリティを売りにしてSplunkが得意な領域に浸食してきているように感じますが。
Lefller:Splunkは単にインフラストラクチャーやWebのオブザーバビリティをやってるだけではなく、ビジネスに直結するオブザーバビリティを提供しているところが最も大きな違いだと思います。つまりCEOがそのまま理解できるようにビジネスの稼働状況を提供できるということです。それをもう長い期間に渡って提供しています。今や、Webサイトやスマートフォンはビジネスの周辺にある付加的なものではなく、そこに問題があれば即座にビジネスへと直結してしまうわけです。私が暮らしているアメリカでは、ローカルなグローサリーストアでもスマートフォンのアプリケーションを提供して顧客と繋がりを作ろうとしているくらいですから。インターネットはもうビジネスの中核に位置する重要なパーツになっていますので、それがどのように稼働しているのか? をビジネスサイドが知りたがるのは当たり前だと思いますね。
そしてもう一つの要因は、多くのビジネスがCiscoを重要なテクノロジーパートナーだと信用してくれているということです。その中でSplunkやAppDynamicsがオブザーバビリティのソリューションとして認識されているということが重要だと思います。
CDNベンダーについては、彼らにとってネットワークモニタリングが主なソリューションであることが違いですね。つまり何か性能やセキュリティに問題があれば、アクセスポイントを増やしましょう、帯域を広げましょう、追加の機能を入れましょうと言うしかありません。セキュリティについてシステム全体をマクロ的に見ればネットワークだけではなくて監視をするべきポイントはたくさんあるはずなんです。Ciscoはすでに多くのセキュリティソリューションを提供している企業であり、ルーターからスイッチに限らず多くのエリアにセキュリティを提供しています。その観点から言えばCiscoには多くのアドバンテージがあると思います。
Ciscoという企業は多くの有望なスタートアップを買収してはダメにするという悪い癖があるというのが私の個人的な印象なんですが、それはSplunkにおいては間違っていたということですか?「ついにあのCiscoが買収を上手くやれるようになった」と?
Lefller:その印象については個人としてコメントすることは控えておきますが、少なくともSplunkとAppDynamicsについては今のところ、良い状況で仕事ができていると言えますね(笑)。
オブザーバビリティについてはOpenTelemetryがクラウドネイティブなシステム、特にオープンソースで構築されるシステムにおいてはデ・ファクト・スタンダードとなりつつありますが、それはSplunkにとってはどんな影響がありますか?
Lefller:我々もOpenTelemetryが主流になっていることは認識しています。Splunkのプロダクトと連携することはすでに可能になっていますし、企業としてのSplunkもOpenTelemetryのコミュニティで活動をしています。
Splunk自体はプロプライエタリーなソフトウェアで、クラウド上にあるマネージドサービスとして提供しているものもそのソフトウェアを使っているということですね? Grafana Labsのカンファレンスではオープンソースがコアで収益化はマネージドサービスでという発想だったんですが、それとは違うと。
Lefller:そうですね。コアのソフトウェアはオープンソースではありませんが、オープンソースのコミュニティとは一緒に活動しています。
eBPFで近年勢力を伸ばしているCiliumの開発元IsovalentもCiscoに買収されましたが、Splunk自体はIsovalentのビジネスとは連携していないんですか?
Lefller:Isovalentのエンジニアとは話をしていますが、まだプロダクトとしては形になっている状態ではないですね。ただしイベントなどでは良く出会うのでそこでいろいろな話をしているという感じです。
最近は生成AIを使ってエラーメッセージの解説をさせたり、システムの状況を会話で問い合わせるインターフェースを作ったりとオブザーバビリティベンダーが生成AIのパワーを提供しようとしていますが、Splunkの場合は?
Lefller:我々もすでに生成AIを使ったソリューションを提供しています。これはSplunk AIとしてブランディングしています。
CopilotやGemini、Bedrockのようなオシャレなブランディングはしないんですか?
Lefller:してないですね。私はそれが気に入っています。
Grafana Labsは生成AIとの対話で実際に使っているクラスターの情報を問い合わせたり、エラーメッセージをドリルダウンしたりするような機能を紹介していましたが、それと同じようなことがSplunk AIでもできるんですか?
注:以下の記事の後半でGrafanaのダッシュボードから生成AIと対話しながらシステムの状況を確認する機能を紹介している。
●参考:GrafanaCON 2025開催、最新のGrafana関連の情報を解説。キーノートから見るリアルな運用現場に対応したAIアシスタントとは?
Lefller:できますね。一般的なシステムのオブザーバビリティに関する知識と特定の環境についての情報を付加することで、そのシステムに関する情報を対話的に得ることができます。
最後にCiscoの一部となったことで良かったこと、残念だったことなどを教えてください。
Lefller:良かったことはやはりCiscoのエンタープライズプロダクトとの連携が可能になったこと、それは機能的な面だけではなく営業面でも良い影響が出ていると思います。何といってもCiscoはエンタープライズ企業にとっては信用できるパートナーだと思われていますから。悪い点というのは特にはないですが、Splunkも約9000人という規模の会社ですので、Ciscoの一部として組織が大きくなったことで少し遅くなったかもしれません。
あなたが感じた「Ciscoは買収が下手」という印象もAppDynamicsやSplunk、そしてIsovalentが良い例としてその印象を変えてくれると思います。「ついにあのCiscoが買収を上手くやった」というあなたのコメントが確信になることを信じています。
短いランチタイムに行ったインタビューであったが、前職での経験やCiscoの一部となった感想などを語ってくれたインタビューとなった。
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