現役アドバイザーが明かす「40~50代の転職を成功させるには」 ~転職市場の現状と押さえるべきポイント

2025年10月9日(木)
工藤 淳伊藤 隆司(Think IT編集部)
最終回は、2人のプロフェッショナルと、現在の40~50代エンジニアの転職市場とその実態について解説します。

「転職エキスパートに聞く『いまどきのエンジニア キャリア事情』」と題して、レバテック株式会社へのインタビューを元に、3回にわたってITエンジニアの転職最前線を紹介していく本連載。

最終回は、転職市場のリアルな「今」と日々向き合っている、2人のプロフェッショナルに話を聞いてみた。現在の40~50代エンジニアの転職市場は、どうなっているのか。その実態と、転職を成功させるための必須ポイントなどを語っていただく。

構造的な人手不足の中、もはや40~50代の転職は「当たり前」に

かつては35歳が「定年」とも言われたエンジニアの世界。だが今、40~50歳のいわゆるシニア・ミドル層の転職が活発化しているという。いったい、何が起きているのだろうか。リクルーティングアドバイザーとして7年のキャリアを持つ芦野 成則氏は、もはやそれが「当たり前」になりつつあると語る。

「少し前までは、50代の転職というと『もう無理では……』という感じでした。それが現在だと、ふつうに50代の方もいらっしゃって、そんなに驚くこともありません。むしろITが仕事として世の中に広がるにつれて、年齢も上昇してきている印象です」

その背景として、IT業界の構造的かつ慢性的な人材不足がある。特に深刻なのが、本連載の第1回でも触れた、プロジェクトマネージャー(PM)など、開発の上位を担う人材の不足だ。システムの複雑化・大規模化が進む中、豊富な経験を持つシニア層への需要は確実に高まっている。

そうしたマネジメントができるのは、必然的にシニアの方が多い。「その層の人材を、どうにかして獲得したいという企業の思いは強いです」と、芦野氏は明かす。

レバテック株式会社 リクルーティングアドバイザー 芦野 成則氏

実際、60歳以上で内定を得た人もいるという。これは10年前なら考えられなかったことだ。IT業界自体が成熟し、第一世代のエンジニアたちが50代、60代を迎える中で、年齢に対する見方が大きく変わってきているのだ。

そうした一方で、キャリアアドバイザーの大峯 瑞季氏は、求職者側が直面する現実的な課題も指摘する。

「この年齢層は組織の中で、スキルを特定の領域に絞って磨いてきた方も多いため、本人の経験と企業側の企業が求めるスキルとのマッチングが、かなり難しいところはあります。本当に、ピンポイントで合うかどうかを探っていくケースも珍しくありません」(大峯氏)

レバテック株式会社 キャリアアドバイザー 大峯 瑞季氏

求人の需要は確実にあるが、そのマッチングは決して簡単ではない。この「需要と供給のズレ」をいかに克服するかが、40代・50代転職の最大のポイントと言えるだろう。

ミドル・シニアの転職では「will」よりも「can」が問われてくる

では、そもそも40~50代のエンジニアは、なぜ転職を考えるのか。その動機について、芦野氏は1つ特徴的な傾向を指摘する。

「何かになろう、何かを成し遂げようといった、いわゆる野心的な考えの方は、今のところ多くありません。それよりは、今の会社に停滞感を抱いていて、それを変えたいという動機が多いと感じています」(芦野氏)

言うなれば、20~30代のようなアグレッシブな「野望」や「野心」に動かされた転職ではなく、より本質的な「働きがい」を求めている点が、ミドル・シニアの転職の特徴だろう。

さらに興味深いのは、「年収アップを、そんなに強く求めていない人も多い」という指摘だ。マネジメント=管理職志向の人もいれば、「現場には軸足を置いて、そこでどんどん活躍の幅を広げていきたい」という人もいる。あるいは、プレイングマネージャーとして「50はプレイング、50はマネジメント」というバランスを求める人も少なくない。いずれにしても、オカネより働きがいが、より大きなモチベーションとなっているのは確実だ。

大峯氏は、こうした希望を持つ40~50代の転職希望者との面談では、「何ができるのか」を突っ込んで聞くという。

「20~30代の面談では、『何をやりたいのか=will』の話に重点を置きますが、40~50代では『何ができますか=can』の話を、徹底的に掘り下げていきます。逆に言えば、若い方のように入社して何ができるかではなく、これまで何をしてどんな成果を挙げたが問われてくるのです」(大峯氏)

この「will」から「can」への転換は、40~50代転職の本質を表現しているといえよう。この年齢までに蓄積してきた経験と能力を客観的に評価し、それを最大限に活かせる場所を探す。それが、40代転職の現実的なアプローチなのだ。

「マネジメント経験」と「ビジネス視点」の2つは必須のスキル

さらに掘り下げて聞いてみよう。40~50代では「can」を問われるというが、具体的にはどんなスキルを企業は求めているのか。芦野氏の答えは明快だ。

「やはり一番のアピールポイントになるのは、マネジメントの経験があるかどうか。加えて、事業やビジネスにインパクトを与えた経験があるのか、この2項が何より大事です。どんな技術を使っていたかなどは、そうした経験に付帯することがらに過ぎません。」(芦野氏)

「事業やビジネスにインパクトを与えた経験とは、例えば新しいシステムを導入する際に、それがもたらすユーザーの導線の変化や、その結果としての売上やKPIにまで配慮して成果を出せたか」と芦野氏は言う。言い換えれば、エンジニアであっても、システムをビジネスのさまざまな側面から見る能力や目配りが問われるということだ。

一般に、エンジニアは技術力が最も大事な能力だと思いがちだが、「お客さんの言う仕様がこれだから、その通りに作るにはどうすればいいかだけを考える人は、求人側としては少々もの足りない」という芦野氏の指摘は、重要な示唆を含んでいる。

また一口にマネジメント経験といっても、その定義は時代の流れとともに、かなり変わってきていると大峯氏は語る。

「少し前まではPMイコール大規模プロジェクトというイメージで、それも大きければ大きいほど貴重な経験値といった風潮でした。しかし近年は、内製化やアジャイル開発が浸透してきている中で、スピード感重視で小規模なチームを回していくスタイルのマネジメントのニーズも出てきています」(大峯氏)

なぜ「優秀」でも決まらないのか~最後の関門はカルチャーマッチ

40~50代の転職活動では、スキルも経験も申し分ない人材が、なぜか内定に至らないというケースがしばしばある。大峯氏は、その意外な理由を明かす。

「非常に優秀な方が40~50代で転職するとなると、求人を出している企業の経営層とも年齢が近くなってきます。その結果、最終的には人と人の相性=カルチャーマッチみたいになるのですが、それだけに最終面接までいかないと、お互いに分からないことがあるのです」(大峯氏)

この年齢では、入社後のポジションも管理職や経営層に近いことが多い。そのため、スキルや経験だけでなく、企業文化や経営陣との価値観の一致が重要になるのだ。「優秀な方だと、面接が対等な議論の場になることもしばしばです。その結果、この会社との方向性が違うかもしれないと、自分から辞退されるケースも少なくありません」と大峯氏は明かす。

芦野氏も、企業側の視点から、カルチャーの大切さを指摘する。

「一般の社員として入社した方がカルチャーに合わなくても、実際のところそんなに大きな問題は起きません。しかし、管理職や経営層で入って合わなかった場合、組織に与える影響は見過ごせないものがあります」(芦野氏)

若い人よりも、じっくり時間をかけて取り組むのが成功への道

ところで40~50代の転職活動は、実際にどのように進むのか。当然だが、そのプロセスは、新卒とはステップも内容もかなり異なってくる。

「最初に、キャリアアドバイザーが面談させていただきます。当社では、およそ60~90分の面談を実施して、登録された方の経歴の棚卸しや、キャリアビジョンの確認を行っていきます」(大峯氏)

その後はキャリアアドバイザーが、求人を担当する企業のリクルーティングアドバイザーとすり合わせをして、その人の転職希望にマッチする求人を探す。応募先の企業が決まったら書類作成、応募、そして2〜3回の面接。内定後は年収確認、オファー面談を経て、最終的な本人の意志決定と続いていく。

ミドル・シニアの転職活動では、このプロセスが若年層に比べてかなり長くなってくる。最初にレバテックのような転職エージェントに登録して、求人に応募するまでの間も、また応募してからも、かなりの時間を見込んで活動する必要があると、芦野氏はアドバイスする。

では、なぜこれほど時間がかかるのか。それは、最初の段階での「キャリアの棚卸し」があるからだ。

「これまでマネージャー経験がある方ほど、自分のキャリアや強みを言語化したことがない方が多いのです。しかし40~50代ではそこが大事なので、面接対策として十分に時間をかけて取り組んでいきます」(大峯氏)

それも単純に「何ができるか」「どんなことが得意か」を確認するだけではない。時には「人生相談」のレベルにまで踏み込むこともある。「転職してやりたいと言っていることが、本人の描く幸せのビジョンと違っていることも、よくあります。面談では、そこを指摘したうえで、あなたの本当の幸せは何ですかという話をしながら、すり合わせていきます」と大峯氏は語る。

例えば、「ワークライフバランスを保ちたくて転職を希望しているのに、お金が欲しいのでコンサル志望」といった矛盾に、当人が気づいていないこともある。そうした本音と建前、理想と現実のギャップを整理しながら、転職成功の確度をアップしていくのだ。

人生100年時代の新しい転職観~「50歳はまだ折り返し地点」

最後に、アドバイザーのお2人から、これから転職にチャレンジしようと考えている40~50代のエンジニアへのメッセージをお願いしよう。

『人生100年時代』という視点から、転職をとらえ直してみることを提案する。この先は誰もが70歳まで働くのがふつうになると考えると、22歳で就職して70歳まで、50歳はほぼ中間点になる。言いかえれば、50歳はまだ折り返しに過ぎないというのだ。

この「50歳折り返し論」は、多くの人に新鮮な視点だろう。50歳手前でふと立ち止まり、残りの人生を考える。家庭も落ち着き、新たなチャレンジをする余裕も生まれる。そんな時期だからこそ、転職という選択肢が現実味を帯びてくる。

「それがエンジニア市場であれば、企業側もシニア採用に抵抗がなくなってきています。むしろ転職することが当たり前という感覚が、すでに定着しつつある。また現職のまま何か他のことを始めるというのも『転職』に含めれば、その人ごとに多彩な選択肢があると思います」( 芦野氏)

一方、大峯氏は、40~50代の転職支援を通じて、自分自身の将来を考えるうえで、本当に大きな励みを得ていると明かす。

「組織の中で上のレイヤーにいた方たちが、さらに新しいキャリアに挑戦した結果、そこでキラキラ輝いて『転職して本当に良かった』『また新しいチャレンジができた』という声を聞くと、自分もそういう40~50代になりたい、チャレンジをし続けたいと思うのです。現在キャリアに悩まれている方や、何か挑戦したいという方も、まずは動いてみることを強くお勧めしたいと思います」(大峯氏)

転職エージェントの役割は、単に求人を紹介することではない。その人が歩んできたキャリアをていねいに棚卸しし、本当の強みを見つけ出し、それを必要としている企業につなぐことだ。時には人生相談のような深い対話を通じて、その人にとって本当に価値のある転職を実現すること。それが、プロフェッショナルとしての使命だと2人は語る。

* * * * *

40~50代での転職は、たしかに簡単ではない。時間もかかるし、求人企業の選ぶ目も厳しい。しかし需要は確実に増えており、成功への道筋も見えている。大切なのは、自分の持つ経験やスキルの価値を再発見し、それが必要とされる場所を見つけることだ。年齢という数字にとらわれず、自分にとって本当に「幸せ」な仕事を見つけ出す。そんな勇気ある一歩を、あなたも踏み出してみてはどうだろうか。

フリーランス・ライター兼エディター。IT専門出版社を経て独立後は、主にソフトウェア関連のITビジネス記事を手がける。もともとバリバリの文系出身だったが、ビジネス記事のインタビュー取材を重ねるうち、気がついたらIT専門のような顔をして鋭意お仕事中。
著者
伊藤 隆司(Think IT編集部)
株式会社インプレス Think IT編集部 担当編集長
IT系月刊誌、資格系書籍、電子書籍、旅行パンフレット等の企画・編集職を経て現職。Think ITのサイト運営と企画・編集、「CloudNative Days」の運営に携わりながら、エンジニア向け書籍の企画も手がける。テクノロジーだけでなく、エンジニアの働き方やキャリアップなどのテーマに造詣が深い。

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