経験者&採用担当者が語る「40代からの転職」~その傾向と対策

2025年9月9日(火)
工藤 淳伊藤 隆司(Think IT編集部)
第1回の今回は、40代で転職を経験したエンジニア3名に、その評価ポイントと準備すべきこと(棚卸し・マネジメント)について解説します。

終身雇用制度が崩壊し「キャリアは自分でつくるもの」という考えが当たり前になりつつある現在、もちろんITエンジニアも例外ではない。慢性的な人手不足にあえぐIT業界は、人材にとって圧倒的な売り手市場だ。しかし企業の選別眼は厳しく、特にシニア層の応募では「何ができるのか」「なぜ転職するのか」を深く見極めようとしてくる。

そこで今回から「転職エキスパートに聞く『いまどきのエンジニア キャリア事情』」と題して、エンジニアと企業のマッチングで大きな実績を持つレバテック株式会社へのインタビューを元に、3回にわたってITエンジニアの転職最前線を紹介していく。第1回の今回は「40代エンジニアの転職」について、自らその年代での転職を経験した3人のエンジニアに話を伺った。

「35歳定年説」はもう古い?
実は企業はシニア人材を求めている

世の中には、いろいろな「俗説」というものがある。そのほとんどは科学的根拠に乏しかったり、漠然とした印象に基づく思い込みだったりするが、論理と科学的事実を重視するIT業界にも俗説はある。「エンジニア35歳定年説」というものだ。

もちろん具体的なデータはないが、かと言って「根も葉もない」と言い切れるものでもない。その昔、プログラミングは手書きの作業も多く、設計支援ツールなども今ほど一般的ではなかった。設計だって徹夜で「うんうん」言いながら、紙にチャートを書いて組み立てていく、デジタルなのにアナログ作業のかたまりだったのだ。

エンジニア自身も「パソコンを使った肉体労働」と半ば冗談で言うほどに知力と体力を使う仕事であり、おそらく「エンジニア35歳定年説」も、そうした過酷な仕事環境の中から生まれて来たのではないだろうか。

前置きが長くなったが、その「エンジニア35歳定年説」が今大きく揺らいでいる。すでに崩壊したと言っても良いだろう。40歳、50歳を過ぎて活躍するエンジニアはもはや珍しくないどころか、キャリアアップ、スキルアップを目指して転職する人もどんどん増えてきている。

とはいえ、35歳の壁がなくなったのは本当なのだろうか。企業の採用現場では、実際のところどう考えているのだろうか。自ら40歳を過ぎてレバテックへの転職を果たし、現在はプロジェクトマネージャー(PM)を務める坂矢 亘氏は「40代でも優秀な人はぜひ来てほしいと、今はみんなが思っていますね」と語る。

レバテック株式会社 デジタルイノベーション事業本部 プロジェクトマネージャー兼エンジニアリングマネージャー 坂矢 亘氏

その背景は、単なる人手不足だけではない。人数を揃えるという以上に、シニアクラスならではの高い経験値を持つ人材が足りないという問題があるのだ。システムの複雑化、大規模化が進み、クラウドやAIなどの最先端技術が次々に登場する中、それらを取りまとめて最適化するには技術力に加えて豊富な経験値が欠かせないと、同じく40歳を超えての転職経験者であり、現在はレバテックのエンジニア採用も担当する、酒徳 圭介氏は明かす。

「そういう意味で、やはりPMなど開発の中で上位を担う人は、今少ないですね。特にPMはこの10年ずっと足りないと言われていましたが、近年はそれが如実に現れています。しかし、これは逆に見れば確実に経験と技術を積み上げた人なら、転職の追い風になるとも言えます」(酒徳氏)

レバテック株式会社 デジタルイノベーション事業本部 QAマネージャー兼エンジニアリングマネージャー 酒徳 亘氏

年齢に応じた経験値があるか?
~採用側が見る評価ポイント

企業が求める40歳以上のエンジニア像は見えてきたが、実際の採用選考=キャリアの評価に当たっては、具体的にどんな点が重視されるのだろうか。経歴書をベースに、その応募者の経歴やスキルをチェックするのはもちろんだが、それにもまして重要なのは「年齢に応じたスキルや経験を、きちんと積み上げているかを見ること」だと酒徳氏は指摘する。それは長年にわたり、積極的に自分のキャリアと業務に取り組む意志を持ち続けてきた何よりの証になるからだ。

加えて重要なのは「大人数のマネジメントや大規模案件を通じて、ユーザー企業やプライムベンダーなどとのやり取りの経験をきちんと積んでいること」(坂矢氏)であり、「特にマネジメント経験における人数は、重要な注目ポイント」(酒徳氏)だという。

若手で小規模の案件の経験者は数多いが、大規模プロジェクトとなると技術力に加えてコミュニケーション能力やビジネス視点など、さまざまな角度からのスキルが要求される。その経験があるということは、周囲からの信頼を得るだけの人材という証明になるわけだ。

40代が転職を目指す理由は
収入より「やりたいこと」重視

では、そもそも40代のエンジニアはなぜ転職しようと考えるのだろうか。少し戻って、その理由について、自ら40代の転職を経験した3名のエンジニアに伺ってみよう。

まず酒徳氏は「今までの経験が、(新しい場所でも)しっかりと生かせるだろうと考えたのです」。事業会社でマネージャーを長く務めた経験から、自分のそれまでの経験を転職先の事業の中に確実に落とし込むことができるかどうか。自分の能力を試してみたいという思いと、これまでの経験があるならできるという自信が、同氏の背中を押したのだ。

坂矢氏も、新しい環境で新しい事業の立ち上げをするのに魅力を感じて、転職に踏み切った1人だ。前職は外資系ITコンサル企業で規模もそれなりに大きく、多くの部下を持ち、収入も満足のいくものだった。それでもやはり、自分1人でも案件はできるという思いを実現したかったのだという。

「私の周囲でも、会社の格や収入よりも自分で事業を立ち上げる経験や、スピード感を持っていろいろな企画を回せることに魅力を感じて転職に踏み切る人が、40~50代には多いという印象があります」(坂矢氏)

そうした意欲の一方で、やはり40代以上の転職は、特に日本の場合、勇気がいるものだろう。強い関心はあっても、年齢が足かせになって踏み切れない人も少なくないが、意外なことにそうした不安は「全くなかった」と明かすのは、PM兼専任チームのLDを務める齊藤 洋平氏だ。

「ソフトウェア業界は、ほとんどの点で年齢を問わない点が魅力です。私自身も、あまり年齢を意識せずにやっています。もちろん、企業によっては採用対象として考える年齢層が暗黙の了解としてはあるのでしょうが、私はたまたまそういう企業に当たらなかった点で、運が良かったのかもしれません」(齊藤氏)

レバテック株式会社 デジタルイノベーション事業本部 QAマネージャー兼エンジニアリングマネージャー 齋藤 洋平氏

もちろん、現在、募集・採用時の年齢制限は法律で禁止されているが、おそらく企業側にそうした「暗黙の了解」があるのも事実だろう。坂矢氏も「明確に40歳を超えてから、企業からのスカウト数が激減しました」と明かす。

「受注開発の、いわゆるクライアントワークの企業からのオファーは変わらず来るのですが、事業会社からの声かけが極端に減りました」(坂矢氏)

そうした年齢のハードルがある中で、今回のエンジニア3人が転職に踏み切ったきっかけは「良いタイミングで魅力的なオファーをもらった」「収入アップを目指して、もう1度チャレンジ」「前職の外資系企業が、日本事務所を閉鎖して失職した」とさまざまだ。

一方で、共通点は「転職エージェントに登録した」「エンジニア以外を考えていなかった」という2点だった。これは、今転職を考えているエンジニアには「1人で悩まない」「自分の軸をしっかり持つ」というアドバイスになるのではないだろうか。

家族の理解は得られるか?
〜「ライフワークバランス」という新たな価値観

シニア世代のエンジニアのみならず、ビジネスパーソンにとって転職時のもう1つの大きな課題が「家族の理解が得られるか」だ。この年代の多くは結婚して一家を支えている。育ち盛りの子どもなら、教育費や学費などの出費も多い。高齢者がいれば、介護の負担もある。家族が賛成してくれなければ「この年で転職なんて考えられない」という人がほとんどだろう。この課題について3人はどうだったのだろうか。

酒徳氏は「私の場合は、妻もバリバリ働いていて転職も何度もしているので、反対するよりもむしろ後押ししてくれた感じです」と恵まれた立場だが、「ただ、親はすごく心配します。『大丈夫? また転職するの?』と言われました」と明かす。

子どものことを思う親心はいくつになってもありがたいが、今40代以上の子の親世代からすれば終身雇用が当たり前で、会社を辞めるというのは「次があるか分からない」一大事という感覚だろう。実際に転職しようとする際に、親世代のこうしたジェネレーションギャップが意外な伏兵になる可能性も高い。シニアの転職希望者は、親対応も重要なポイントと心得ておきたい。

もう1つ重要なキーワードは「ライフワークバランス」だ。齊藤氏が転職を決めたとき、まだ子どもが小学校3年生だったため、転職先を決める場合も、ある程度ライフワークバランスを考えて進めようと話し合ったと振り返る。

「妻も仕事をしていたため、生活面でもメンタルの面でもきちんと子どもの面倒を見てあげられるように、私たちの働き方も考えていこうと思ったのです。そのために妻も今は、より時間的な余裕を持てる仕事に転職して、子どもとの時間を増やすなどの工夫をしています」(齊藤氏)

今から準備できることは?
キャリアの棚卸しから始めよう

こうして3人のお話を伺ってみると、40歳以上の転職は十分に可能だが、それを実現するには自分のスキルや経験値、会社や人脈などの環境づくり、さらには家族の理解や協力など、さまざまな領域にわたる課題があるのも事実だ。決して今日、明日思いついて達成できるものではない。いつの日かシニアの転職を成功させるために、今から取り組んでおけるテーマなどはあるのだろうか。

酒徳氏は「まず、今までやってきたことの棚卸しをしっかりすること」を1番に挙げる。エンジニアに限らず、その人が歩んできたキャリアや経歴は、その人だけの大切な財産であり資源だ。それをしっかりと第三者に説明できて、なおかつ再現性を持たせることが大切だという。どんなに素晴らしい能力を持っていても、それを相手にきちんと見せることができなければ何にもならないからだ。

「あとは、日頃から最新の技術に少しでも触れておくことですね。最近だとAIなどについて書籍でもネットでも情報を探して、それを自分の業務に照らし合わせながら理解してみることが、いざ転職しようと思ったときに時代遅れのエンジニアにならないことにつながります」(酒徳氏)

坂矢氏は、これを受けて「自分のスキルや経験を棚卸しした上で、それを一貫したストーリーと、その先の目標として整理しておくことをお勧めします。採用側としては、それが聞ければ、この人は場当たりではなく、自分のキャリアをきちんと描いたうえで、これまで歩んできたのだと分かるからです」とアドバイスする。また、新しい技術にとにかく触ってみる、かじってみる体験を重視するのは、酒徳氏とまったく同意見だという。

こうした技術力や知識に加えて、齊藤氏は「問題解決能力を身につけておくことが大事だ」と示唆する。プロジェクトの現場では、どうしても避けられない失敗やトラブルがつきものだ。採用側も、そうした事態を的確に回避できる知識や経験を身につけているか、あるいは過去の失敗を振り返って、どんな答えを示せるかを重視するという。

「シニア世代になると、プロジェクト全体を見る機会も増えます。そこで発生するトラブルも技術面だけでなくさまざまな領域にわたるため、そうした問題解決能力はキャリアを積めば積むほど求められてきます。そういう意味では若いうちにたくさん失敗をして、その反省を自分の問題解決能力に昇華させる経験が大事だと感じています」(齊藤氏)

「経験は最強の武器」
~シニア世代へ激励&メッセージ

最後に、転職を通じてキャリアアップ、スキルアップを目指す40歳以上の読者に、自ら経験者でもありアドバイザーでもあるゲストの皆さんに、一言ずつメッセージをお願いしよう。

「繰り返しになりますが、まずはご自身で歩んできたこれまでのキャリアの棚卸しをしてください。これまでの長いエンジニア経験の中に、必ず何か自分だけの強みがあるはずです。それが見つかったら、今度はそれを大いに生かして実際の転職活動を頑張っていただけば、きっと満足のいく成果が得られるはずです」(酒徳氏)

「シニア世代の強みは、やはり20代、30代では持ち得ない経験を数多く積んでいる点にあります。世の中はAIによる自動化やノーコードに注目が集まっていますが、エンジニアリングの現場は、まだまだそういった『人の経験』を必要としているところばかりです。その期待に応える能力や経験をお持ちの方は、もちろん当社でも歓迎しています。ご自分の中にある経験値を信じて前に進んでください」(坂矢氏)

「2人に全部言われてしまいましたが(笑)、本当に40代以上のエンジニアにとっては、経験は技術力と同等、あるいはそれ以上の価値であり、問題解決のための強力な武器となるものだと思います。しかもそれは外から探すのではなく、自分の経験の中に埋まっているものなので、まずは自身のこれまでをしっかり見つめ直してから、スタートされることを、強くお勧めします」(齊藤氏)

* * * * *

3人が異口同音に語る「経験」の大切さは、そのままシニア転職の突破力であり、言い換えれば「若手にはどう頑張っても手に入らないアドバンテージ」だと言えよう。今回の記事を参考に、40歳以上のエンジニアの皆さんには、ぜひ勇気を持って新天地を目指して進んでいただきたい。

フリーランス・ライター兼エディター。IT専門出版社を経て独立後は、主にソフトウェア関連のITビジネス記事を手がける。もともとバリバリの文系出身だったが、ビジネス記事のインタビュー取材を重ねるうち、気がついたらIT専門のような顔をして鋭意お仕事中。
著者
伊藤 隆司(Think IT編集部)
株式会社インプレス Think IT編集部 担当編集長
IT系月刊誌、資格系書籍、電子書籍、旅行パンフレット等の企画・編集職を経て現職。Think ITのサイト運営と企画・編集、「CloudNative Days」の運営に携わりながら、エンジニア向け書籍の企画も手がける。テクノロジーだけでなく、エンジニアの働き方やキャリアップなどのテーマに造詣が深い。

連載バックナンバー

キャリア・人材インタビュー
第1回

経験者&採用担当者が語る「40代からの転職」~その傾向と対策

2025/9/9
第1回の今回は、40代で転職を経験したエンジニア3名に、その評価ポイントと準備すべきこと(棚卸し・マネジメント)について解説します。

Think ITメルマガ会員登録受付中

Think ITでは、技術情報が詰まったメールマガジン「Think IT Weekly」の配信サービスを提供しています。メルマガ会員登録を済ませれば、メルマガだけでなく、さまざまな限定特典を入手できるようになります。

Think ITメルマガ会員のサービス内容を見る

他にもこの記事が読まれています