Community Over Code Asia 2025からByteDanceが開発したTRAEを紹介

The Apache Software Foundationが北京で開催したCommunity Over Code Asia 2025(COC)のキーノートから、ByteDanceが開発したソフトウェア開発のための生成AIツール、TRAE(The Real AI Engineer)を紹介する。このセッションはCOCの初日、2025年7月25日のキーノートの中で行われたもので、ビッグデータが主体のカンファレンスであるCOCでも生成AIは大きなトピックになっていたことがわかる。
プレゼンテーションを行ったのはTRAEのプロダクトマネージャーであるTao Wang氏である。プレゼンテーションは中国語、スライドもほぼ中国語という内容だったが、TRAEについては公式サイトが公開されている。TRAEはIDEのプラグインで生成AIを実装するのではなく、Visual Studio Codeからフォークしたコードを中心に生成AIの機能を組み込んだコードアシスタント以上の機能を提供する「リアルなAIによるソフトウェアエンジニア」というのが要約としては妥当だろう。
●公式サイト:https://www.trae.ai/
最初に紹介したのはCueというオートコンプリーション機能で、ここからTRAEに繋がる開発が継続されていたであろうと推測される。
コードを書く時に必要なパラメータなどを自動で補完する機能が最初に作られ、その後、AIによるコードアシスタント機能、そこから今回のテーマであるTRAEに繋がるという経緯を辿っている。
次のスライドではMars Codeというコード生成ではなく既存のコードをデバッグする機能がTRAEに統合されたことを解説しているが、Mars Codeについてはコーネル大学が運営している論文の公開サイトarXiv.orgで論文が公開されているので、そちらも参照して欲しい。
●Mars Codeに関する論文:https://arxiv.org/html/2409.00899v2
この年表で示されているのは2024年6月にMars Codeが公開されてから、2025年の1月、3月、4月、5月と非常に短期間でコードアシスタント機能が開発され、100万ダウンロードというマイルストーンに到達したことである。ここで示されているように、IDEに組み込んだ国際版が2025年1月、その国内版が3月、TRAEにデバッグ機能であるMars Codeを統合したのが4月、そして100万ダウンロードが5月と毎月のように開発が進んでおり、ByteDanceの開発能力の高さを示していると言える。もちろん、TRAEの開発自体にTRAEが使われていることは間違いないだろう。
そしてVisual Studio Codeのプラグインとして実装していたAIアシスタント機能を単体のIDEとして実装し直したことで、TRAE SoloというIDEに依存しないソフトウェアになったことを説明。TRAEはVisual Studio CodeのオープンソースコードからフォークしてByteDanceが作り直したというのが実際の中身となる。
これは外部のソフトウェアに依存せずに開発のエリアを拡げられることを意味しており、IDEにAI機能を追加するのではなくAIによってロジックとなるコード以外のデザインやコメント、ドキュメント、デプロイのためのコードまでを包括的に生成AIによって生成させるという方向性であるようだ。
この総体であるTRAEが外部のAIエージェントに連携し、外部のデータソースを取り込んでデベロッパーを支援するというのがTRAEの発想だろう。
これによってコンテンツ、例えばWebサイトであればより魅力的な説明文章や文章の修正、コンテンツ管理などが可能になり、コンテンツのアクセス数などの運用面での効果も可能になると説明した。
これらの機能をTRAE Soloというプロダクト名で公開している。このサイトでは英文で短い動画を交えながら、IDEのプラグインから単体のソフトウェアとして生まれ変わったことで可能になった包括的な開発手法を解説している。
●TRAE Soloの公式サイト:https://www.trae.ai/solo
ここまでIDEのプラグインからByteDanceが開発した生成AIによるデバッグ機能を統合して単一のソフトウェアとなったTRAE Soloを紹介し、最後に実際にコードを生成しているようすをデモとして紹介。ここではプロンプトに対してコードが生成されるところが中国語の回答とともにTRAE上に表示されていることがわかる。
ここまではIDEのプラグインから進化してさまざまな機能を追加したByteDance製の開発ツールTRAEの紹介であり、良いことばかりが並べられているといった内容となっている。最後にTRAEに関するセキュリティ分析を行ったUnit221Bのブログを紹介する。
●TRAEに対するセキュリティ分析のレポート:Unveiling Trae: ByteDance's AI IDE and Its Extensive Data Collection System
これはByteDanceがVisual Studio Codeからフォークして実装したTRAEのテレメトリー情報をベースにして、どの機能がどのようなテレメトリー情報をどこのサーバーに送っているのか? を確認することで、エンドユーザー向けに提供されている機能の中からByteDanceがやろうとしていることを分析するという手法をとっている。このレポートは2025年3月の段階の分析であるため、最新のTRAEの実装とは異なる可能性が高いことは留意されたい。
TRAEはByteDanceが開発し、シンガポールの子会社SPRING PTEから配信されているという。利用している生成AIのモデルとしてはClaude 3.7 SonnetとChatGPT 4oが使われている。この分析では非常に細かくネットワークトラフィックを収集、分析しており、その分析の細かさはIT部門のセキュリティチームのテンプレートとしても使えるだろう。「無償のインターネットサービスが実際に何をしているのか?」を知りたいエンジニアにとっては良いサンプルだと思われる。
全体として、生成AIを使って開発プロセスを加速するという目的のために作られたツールの現在地を知るという目的のためには最適なセッションだったと思われる。ただし、便利なツールが無償や低価格で提供される裏側を知っておくべきであろう。
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