【実例で学ぶ】生成AIの導入に成功した「4大要素」で、これからの「企業DX」に差がつく

はじめに
本連載は、生成AIコミュニティ「IKIGAI lab.」で活動している8名で運営しています。この記事を通して、ぜひ皆さまも各々の半歩先の未来を想像しながら、色々な価値観を楽しんでいただけると嬉しいです。
2025年6月13日にマクロミルが公開したレポート「企業での生成AI活用における課題と可能性」によれば、国内企業で生成AIを「導入されている」と回答したのは26.3%にとどまり、さらに44.6%が自社の導入状況を把握していないという実態が明らかになりました。最大の障壁は「習得機会の欠如」(33.9%)であり、推進部門の設置率が75.6%と高い一方、ルール・ガイドラインの整備・運用率は26.6%に過ぎないことが示されています。
同レポートは、生成AIを組織に定着させる成功要素として、以下の4つを挙げています。
① 業務との接続性を高める活用設計
② “使いたくなる”環境整備
③ ルール・スキル・ナレッジの三位一体育成
④ トップダウンと自発的実践を両立させる文化醸成
【参照】「マクロミル、企業の生成AI活用実態と定着のための成功要素をレポートで公開 ~ビジネスパーソンへの調査で課題と定着プロセスが明らかに~」(マクロミル 2025年6月13日)
本稿では、これら4つの要素を満たし、生成AIの導入に成功した企業の活用事例を紹介していきます!
各企業の生成AI活用事例
三井化学:新規用途探索AIプラットフォーム
三井化学は、製品の新規用途探索における高精度化と高速化を目指し、既存の「IBM Watson」と「Microsoft Azure OpenAI」のGPT(生成AI)を融合したツールを導入しました。
IBM Watsonがビッグデータ分析のエンタープライズAI基盤として機能し、GPTは生成、応答、抽出、要約、高速サーチ、インタラクティブインターフェースを提供することで、IBM Watsonの分析能力を向上させました。
この取り組みにより、以下の結果が得られました。
- 4か月間での辞書作成数が約10倍に増加
- 明確に「用途」と記載のあるデータからの新規用途の抽出作業効率が3倍に向上
- 新規用途の発見数が約2倍に増加
これにより、市場開発から製品開発までのスピードを加速させています。
【参照】「生成AI/GPT活用により、新規用途の発見数が倍増」(日本IBM 2023年9月13日)
キング醸造:需要予測×在庫最適化AI
キング醸造は、現場からの出荷予測のばらつきによる在庫過多や欠品、予測のための人的工数増大といった課題を解決するため、ノーコードAI予測プラットフォーム「UMWELT」を導入しました。
UMWELTは専門知識を必要とせず、既存のExcelデータから需要予測を自動化しています。UMWELTで算出した予測値の精度が既存の手法よりも良いことが確認され、社内のシンプルなデータで業務に即した柔軟な予測結果(月間/週間、出荷拠点ごとなど)が得られる点が評価されました。
【参照】「キング醸造の挑戦:ノーコードAI「UMWELT」で食品ロスと工数を同時削減」(AI総合研究所 2024年12月17日)
日立製作所:自律ライン最適化AI
日立製作所は、現場で働くフロントラインワーカーの人手不足や技能継承の課題に対応するため「AIエージェント開発・運用・環境提供サービス」を提供開始しました。このサービスは、エスノグラフィーやAIインタビューを通じて熟練者の暗黙知を抽出し、設備図面や保守記録などの文書データと組み合わせてAIに学習させることで、業務に即した高精度の回答を可能にします。
また、日立パワーソリューションズでは、社会インフラ設備の保守業務の初動判断にAIを導入し、業務全体で約3割の効率向上を見込んでいます。
【参照】「日立製作所、現場の“匠”の知見をAIに継承できる生成AI活用サービスを開始」(MONOist 2025年4月1日)
ブリヂストン:生成 AI 搭載タイヤ成型システム「EXAMATION」
ブリヂストンは、タイヤ生産における品質向上と高生産性を目指し、AIを実装した最新鋭タイヤ成型システム「EXAMATION」を彦根工場に導入しました。このシステムは、タイヤ1本あたり480項目の品質データをセンサーで計測し、AIがリアルタイムで自動制御することで真円性(ユニフォミティー)を15%以上向上させています。
また、熟練技能員が培ってきた技術やノウハウに依存している工程を自動化することで人によるばらつきを極小化し、高精度なモノづくりを可能にしました。マルチドラム製法の採用により、生産性も約2倍に向上しています。
【参照】「日立製作所、現場の“匠”の知見をAIに継承できる生成AI活用サービスを開始」(ブリヂストン 2016年5月25日)
三菱ケミカルシステム:生成AIヘルプデスク&ルート最適化
三菱ケミカルシステムは、グループ会社向けのヘルプデスクにAIチャットボット「Alli」を導入し、新たなサポートサービスを展開しています。毎月約5,000件の問い合わせに対応するため導入されたAlliは、導入直後から応答精度75%以上を達成しました。特に社内システムの入れ替え時には、Alliが基本的な質問に自動で回答することで、ヘルプデスクへの問い合わせが激減しました。
【参照】「■導入事例■【三菱ケミカルシステム様】毎月5,000件の社内ヘルプデスク対応を、AIチャットボット「Alli」で自動化」(Allganize Japan 2022年12月20日)
まとめ
今回で取り上げた5社は、いずれもマクロミルが提唱した4つの成功要素を重層的に満たすことで生成AIを実戦配備しています。
この4要素は①でKPIへ接続し、②で現場UXを磨き、③で知識を資産化して、④で学習ループを組織文化に織り込む、といったように、それぞれが効果を発揮することで効果を発揮します。まずは小規模PoCを実践し、4つの成功要素で強化が必要なものを強化することが、生成AI導入のカギになるのではないでしょうか。