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  インタビュー

Access資産をどうDXへ移行するのか -「Access to Pleasanter」が示す、その現実解と課題解決のアプローチ

2025年10月6日(月)
吉田 行男伊藤 隆司(Think IT編集部)

Access資産のDX移行を支援する「Access to Pleasanter」の開発元であるラモ・テクノロジーに、アセスメント効率化とデータ移行を実現し、大企業案件やVBA課題にも挑む姿勢について聞いた。

DX時代に取り残された「Access資産」という現実

DX推進が声高に叫ばれる一方で、多くの企業にとって見過ごせないのが「Access資産」の存在だ。基幹システムやERPはクラウド化が進み、最新の開発基盤に置き換えられている。しかし現場で日々利用されているのは、部門単位や個人の裁量で作られたAccessアプリケーションであり、それが業務の根幹を支えているケースも少なくない。

設計書が残されていないことも多く、担当者が異動・退職すれば運用ノウハウごと失われる。セキュリティ更新やOSサポートの終了により「動かなくなるリスク」を抱えながら、業務を止められず延命されているのが現状だ。

こうした“置き去りの資産”をどうDXに取り込むか。Pleasanter専業ベンダーであるラモ・テクノロジーは、その現実に正面から向き合い「Access to Pleasanter(A2P)」を開発した。

A2P誕生の背景

同社の柴田 剛氏は、A2P開発の経緯を次のように振り返る。「ここ1~2年、AccessからPleasanterに移行したいというご要望が急増しました。基幹システムは更新される一方で、Accessは残されたまま。更新できないが止められない。この相談に対応するうち、ツール化すべきだと考えました」

最初は個別にAccessを解析し対応していたが、案件の増加を見越して自動化に舵を切ったという。

ラモ・テクノロジー株式会社 システムエンジニア 柴田 剛氏

アセスメントを効率化する仕組み

Access資産を移行する際の最大のハードルとなるのは、まず「現状を把握する」ことだ。設計書がなく、テーブルやフォームの実態がブラックボックス化しているためである。

柴田氏は言う。「Accessは担当者が増改築を重ねてきたものが多い。そこでA2Pはファイル構造を解析し、テーブル定義を抽出してPleasanterへ移行できるようにしました。1件ずつ手で開くのは非効率ですが、このツールがあれば出力を確認するだけで済みます」

また、実行時間についても具体的に示している。「フォームやレポートは1件あたり1分弱。100件あっても1時間強で解析可能です」(柴田氏)

これにより、PoCや要件定義フェーズで数日~数週間を要していた調査工数を、大幅に削減できるようになったのである。

テーブル定義とUI生成の流れ

解析したテーブル定義はPleasanter側へ自動生成される。柴田氏は続ける。「百項目程度あってもデータ型や制約を正確に移せます。Pleasanterではテーブル定義から仮の入力画面が生成されるため、それを基に業務に適したUIを整えれば良い。今年春に追加されたスマートデザイン機能を使えば、ドラッグ&ドロップで簡単に画面レイアウトを調整できます」

Access特有の複雑なUIをそのまま再現するのは難しいが、「土台の自動生成」と「GUIによる柔軟な調整」を組み合わせることで、短期間で実用的な画面を提供できるのだ。

VBAと帳票-完全自動化できない領域

Access資産で最も懸念されるのがVBAや帳票の移行だ。

「よく聞かれるのは『VBA変換はできるのか』『帳票はどうなるのか』という質問です。VBAは生成AIを使ったJavaScript変換ツールを別途開発しています。ただ、8割は自動変換できても、残りはAccessとPleasanter両方を知るエンジニアによる調整が必要です。帳票についても自動化は難しく、現状はサードパーティ製の帳票プラグインを案件ごとに検討し使用することが多いです」(柴田氏)

“完全自動移行”を掲げない現実的な姿勢は、実務者にとって信頼につながる。複雑なロジックや帳票は人手調整を前提とし、確実性を優先するアプローチだ。

大規模案件への対応

A2Pは当初、中小企業向けを想定していたが、実際には大企業からの問い合わせが多いようだ。

柴田氏は現状をこう語る。「大企業のほうがAccess資産を多く抱えている印象です。100万件以上のデータ移行案件もあります。その場合、テーブル定義はA2Pで、データ本体は自社開発した大量データローダーを併用するのが現実的です」

同社の開発本部長を務める浅沼 豊氏も補足する。「私たちが直面する課題は他のパートナーも同じ。だからこそPleasanter本体の基本機能の活用だけでなく、自社で開発した移行ツール、大量データローダー、CSVデータ属性変更機能付きインポートモジュールなど、現場で使える拡張機能モジュールを続々と開発しシステム移行業務を改善していきたいと考えています」

実際、同社は今年からコントリビューターとしてPleasanter本体の改良に関わり始める準備を進めており、自社開発ツールをOSS-Pleasanterに対して現場の課題をフィードバックすることで、エコシステム全体の強化を狙っているという。

ラモ・テクノロジー株式会社 COO/システム開発本部長 浅沼 豊氏

Pleasanterを選ぶ理由

Accessからの移行先としてPleasanterが選ばれる理由について、浅沼氏は次のように語る。「オンプレでも導入でき、API連携でERPとも接続可能です。SaaSベンダーが提供しているサービスでは難しい業務領域にも対応できるため、SaaSベンダーとの競合にも勝っていけるのが強みです」

SaaSの選択肢が多い中でも、オンプレ対応や拡張性は依然としてエンタープライズにおける重要な要件だ。

提供形態と価格

A2Pは2025年1月に正式リリース。価格は標準機能で「1プロジェクト=約3か月」で25万円を目安にしている。

柴田氏は説明する。「テーブル定義とデータ移行は評価版として今後、無償配布を検討しています。ただしアセスメントはシステム設計の要になるため有償とします。まずは気軽にデータ移行から試していただきたいですね」

この“入口は無料、価値の源泉は有償”という設計は、SIerや社内情シスにとって導入検討を後押しするモデルと言えるだろう。

* * * * *

Access資産は依然として現場に残り続ける“負の遺産”でありながら、業務の基盤として欠かせない存在でもある。その移行は、VBAや帳票など自動化が難しい領域を含むため、100%の機械変換は現実的ではない。

その中で、A2Pは最初の関門であるアセスメントとテーブル・データ移行を自動化し、プロジェクトの初速を大幅に引き上げる。大企業案件や大規模データ移行にも踏み込み、さらにPleasanter本体の改善にも貢献していく姿勢は、単なるツール提供を超えてDX推進の基盤整備につながる。

Access資産を抱える企業にとって、A2Pは“移行の第一歩”を現実的に踏み出すための最有力手段と言えるだろう。

2000年頃からメーカー系SIerにて、Linux/OSSのビジネス推進、技術検証を実施、OSS全般の活用を目指したビジネスの立ち上げに従事。また、社内のみならず、講演執筆活動を社外でも積極的にOSSの普及活動を実施してきた。2019年より独立し、オープンソースの活用支援やコンプライアンス管理の社内フローの構築支援を実施している。
著者
伊藤 隆司(Think IT編集部)
株式会社インプレス Think IT編集部 担当編集長
IT系月刊誌、資格系書籍、電子書籍、旅行パンフレット等の企画・編集職を経て現職。Think ITのサイト運営と企画・編集、「CloudNative Days」の運営に携わりながら、エンジニア向け書籍の企画も手がける。テクノロジーだけでなく、エンジニアの働き方やキャリアップなどのテーマに造詣が深い。

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