「Git」によるスムーズなチーム開発を支えるルール作りと活用法を学ぼう

2025年6月3日(火)
石本 達也
第8回の今回は、チーム開発における「Git」運用のルール整備と、効率的なコードレビューを実現するための活用法を解説します。

はじめに

チームで「Git」を活用して開発する機会が増えてきましたが、個人の使い方とチームでの運用とでは、求められる工夫や意識が大きく異なります。特に少人数の開発チームでは、日々のちょっとしたGitの使い方やルールの差がレビューの効率や開発体験、リリースの安定性に思いのほか大きな影響を与えることもあります。

そこで本記事では、そうしたチーム開発におけるGitの使い方について、基本的なルールやありがちなつまずきポイントを中心にまとめました。日々の運用を見直すヒントとして、役立てていただければ幸いです。

なお「Git Flow」や「GitHub Flow」といったブランチ戦略についての比較は、第4回「Gitのブランチ戦略の基本とルールを学んで使いこなそう」で詳しく紹介しています。そのため、本記事では、それらの運用の中で気をつけたいポイントに絞って解説します。

コミットメッセージは読みやすく丁寧に

コミットメッセージは、チーム全体がコードの変更内容を理解するための重要な情報源です。「何を変えたか」だけでなく「なぜその変更が必要だったのか」まで丁寧に書いておくことで、履歴をたどった際の理解が深まり、トラブル対応や改修作業にも役立ちます。特に、チーム開発では後からコードを読む人への配慮が重要です。その「後から読む人」は、将来の自分自身であることも少なくありません。

「Conventional Commits」を活用して書き方を揃えてみよう

チームでコミットメッセージの書き方を統一しておくと、履歴を見返したときに変更の目的や内容を素早く把握しやすくなります。そのためのフォーマットとして「Conventional Commits」が使われます。

これは、コミットメッセージを一定のルールに沿って記述するためのガイドラインです。例えばfeat:という接頭辞は「新機能の追加」、fix:は「バグ修正」、docs:は「ドキュメントの修正」など、変更の種類を冒頭に明示します。これにより、人間にも機械にも分かりやすい履歴を作ることができます。

基本のフォーマットは以下の通りです:

タイプ (type): 内容の要約

変更の詳細や背景など (必要に応じて)
具体例:
feat(api): ユーザー一覧 API にページネーションを追加

Redux の store 構造に合わせ、totalCount と nextPage を返すようにした。

この例では、

  • featによって「新機能の追加」であることが分かり、
  • (api)により変更対象の範囲が明示され、
  • 件名で要約され、
  • 本文に背景や補足説明が含まれています。
このように書くことで変更の意図が明確になり、レビューや調査がスムーズに進みます。

また、こうした形式に揃えておくことで「semantic-release」のようなツールと連携しやすくなります。semantic-releaseはコミットメッセージの内容に基づいて自動でバージョン番号を決定し、CHANGELOGの生成やリリース処理を自動化できる便利な仕組みです。

履歴をきれいに保つためには

コミット履歴の扱い方については、開発者やチームにより意見が分かれるところです。すべての履歴をそのまま残しておくと、変更の経緯が詳細に分かる一方で、あまりに細かすぎるコミットが多いと履歴が雑然として読みにくくなります。

そのため、ローカルで細かくコミットを重ねながら作業を進め、マージ前に履歴を整理するという方法がよく使われます。ここで活用されるのが「スクワッシュ(squash)」や「リベース(rebase)」といった手法です。

  • スクワッシュ:複数のコミットを1つにまとめてからマージする方法
  • リベース:履歴を整理しつつ、ベースブランチ(例:main)に追従させるための手法

これらは、特に開発者自身しか編集しないfeatureブランチなどでよく使われています。作業履歴を自らの判断で整理できるタイミングだからこそ意図を明確にし、後から見返しても分かりやすい履歴に仕上げることが可能です。

一方で、これらの操作には注意点もあります。リベースやスクワッシュを行うとコミットのハッシュが変わるため、他の人と共有しているブランチで実行すると、その影響で作業が競合したり、履歴が食い違ったりする可能性があります。ただし、共有と言ってもレビュー目的で一時的に参照されているだけの場合は大きな問題になることはあまりありません。また、他の人がそのブランチを編集したり、派生ブランチを作っていない場合も同様です。

履歴の整理を行う際は、他のメンバーがそのブランチに依存していないかを確認してから実行すると安心です。

Gitの履歴は単なる記録ではなく、プロジェクトの成長の過程そのものです。丁寧に整えておくことでチーム全体の理解が深まり、保守性や引き継ぎのしやすさも向上します。

プルリクエストでレビューの効率を高めるには

プルリクエスト(PR)の活用については「GitHub」の基本的な使い方と合わせて理解しておくとよりスムーズです。GitHub上でのリポジトリ作成やPRの基本的な操作方法は、第7回「Visual Studio CodeでGit/GitHubをはじめよう! 拡張機能で簡単リポジトリ操作」を参照してください。

コードレビューは品質担保とチーム内の知識共有のために欠かせないプロセスです。ただし、レビューの質と速度を両立するにはプルリクエスト(PR)の出し方・見せ方にも工夫が必要です。

PR テンプレートで情報を整理する

PRを提出するときに、レビュワーが「何を」「どこを」「どう見れば良いのか」をすぐに把握できるようにしましょう。そのためには、あらかじめテンプレートを整備しておくのがオススメです。

## 背景
今回の変更が必要になった理由など。

## 変更点
追加・修正した主な内容。

## 動作確認方法
レビュー担当が手元で確認する場合の手順など。

## 影響範囲
この変更が及ぶ可能性のある箇所(UI、API、他モジュールなど)。

## 補足・相談事項
レビュワーに見てほしい点、判断に迷っている箇所など。

テンプレートがあることでチーム全体の認識が揃いやすくなり、コメントの質や議論の方向性も整いやすくなります。

適切なサイズでPRを分ける

巨大なPRは、どれほど丁寧に書かれていてもレビューの負担が増し、結果的に見落としや時間のロスにつながります。以下のように工夫して、PRのスコープを適切に保ちましょう。

  • 機能ごとに分割してドラフトPRを早めに立てる
  • リファクターと機能追加を分ける
  • 一時的なWIP(作業中)PRを活用してCIを先に回す

レビュー対応ルールを決める

レビューが滞ればチーム全体の開発スピードに影響します。責任の所在や期待値を明確にするため、以下のようなレビュー対応ルールを決めておくと良いでしょう。

  • 一次応答(コメントまたはリアクション)を24時間以内に行う
  • 原則3営業日以内にマージまたは差し戻し判断をする
  • 緊急修正は最小限の承認で即時マージ可能とする

これにより、メンバー間の認識齟齬や“放置されたPR”問題を防ぐことができます。

レビューを支える仕組みを整える

レビューは人の手による確認が基本ですが、仕組みで補える部分は積極的に自動化することで、抜け漏れや属人化を防げます。例えば、以下のようなシステムを組み込んでおくと、レビューの負荷軽減や精度向上に役立ちます。

  • CIによる構文チェックや自動テストの実行
  • プレプッシュ(pre-push)・プレコミット(pre-commit)フックによる整形や静的解析の自動化
  • 生成AIを活用したレビューコメントの下書き支援

テストが通るかの確認などは手元の環境だけに頼らず、CIやクラウドの仕組みに任せることで再現性や一貫性のあるレビュー体験が得られます。

これらの具体的な活用法については、今後の連載で改めて詳しく取り上げていく予定です。

コンフリクトとうまく付き合うには

チーム開発では避けて通れないのが「コンフリクト(衝突)」です。複数人が並行してコードを書いている以上、ファイルの同じ箇所が同時に編集されることは珍しくありません。

とは言え、コンフリクト自体は悪ではありません。発生した理由が分かり、適切に解消できれば、むしろコードの一貫性を保つための健全な摩擦とも言えます。

・よくある発生パターン
コンフリクトは以下のようなケースで起きやすくなります:

  • 同じ関数や同じ行を複数人が編集したとき
  • 同時に新しいファイルを作成し、同じ名前が使われたとき
  • mainブランチの更新を取り込まずに長時間開発していたとき

・解消の基本ステップ
落ち着いて対処すれば、コンフリクトは怖くありません。ここでは、典型的なrebase時にコンフリクトを解消する方法について、具体的に見ていきます。

まず、自分の作業ブランチがmainに対して古くなっているかどうかを確認します。以下のコマンドで差分をチェックできます:

git fetch origin
git log --oneline origin/main..HEAD

ここで何も出力されない場合は、mainよりも新しい変更がすでに含まれている状態です。何件かログが出てくる場合は、自分のブランチにしかないコミットがあるということになります。逆にHEAD..origin/mainとすると、mainにだけある変更が確認できます。

こうした差分を把握した上で、必要に応じてrebaseを実行します。

git fetch origin
git rebase origin/main

このとき、以下のようなエラーメッセージが表示される場合もあります:

CONFLICT (content): Merge conflict in src/components/Button.tsx

この場合、対象のファイルをエディターで開くと、以下のようなマーカーが表示されます。

このマーカーは、コンフリクトが発生した箇所を示しています。<<<<<<< HEADから=======の間が自分のブランチの変更内容、=======から>>>>>>> origin/mainの間がmainブランチの変更内容です。

<<<<<<< HEAD
export const Button = () => {
  return <button>Click me</button>
};
=======
export const Button = () => {
  return <button>Submit</button>
};
>>>>>>> origin/main

ここで、どちらの内容を採用するか、あるいは統合するかを判断します。例えば、次のように整理できます:

export const Button = () => {
  return <button>Click or Submit</button>
};

整理したら、解消済みとしてGitに伝えます。

なお、コンフリクトが発生したファイルの内容に不明点がある場合や、どちらの変更を優先すべきか判断が難しい場合は、自分だけの判断で修正を加えないようにしましょう。意図に反したコードとなったり、思わぬ不具合の原因になることがあります。

チーム開発においてコンフリクトは対話のきっかけと捉え、コードだけでなく文脈を共有することが大切です。

export const Button = () => {
  return <button>Click or Submit</button>
};

複数ファイルでコンフリクトが発生している場合は、すべて解消してから--continueを実行してください。途中でどうにもならなくなったらgit rebase --abortで元に戻すことも可能です。

最近では「Visual Studio Code」や「GitHub Desktop」などでも視覚的にコンフリクトを解消できるため、慣れないうちはツールに頼るのも有効です。

・コンフリクトを未然に防ぐには
コンフリクトを完全になくすことはできませんが、チームでの運用を工夫することで発生の頻度や影響を減らすことは可能です。

まず、git fetchrebase origin/mainをこまめに行い、自分の作業ブランチを定期的に最新状態へ追従させましょう。これにより、長期間放置されたブランチにありがちな大規模なコンフリクトのリスクを下げることができます。

また、チーム内で「誰がどの箇所を編集しているか」を事前に共有することも重要です。スクラムであれば、デイリースクラムを活用して「今日触る予定のファイルや機能」をあらかじめ共有しておくと、編集の重複によるコンフリクトを防ぎやすくなります。

さらに、PRの粒度を細かく保つことも効果的です。小さく頻繁なPRはレビューの負担を減らすだけでなく、コンフリクトの発生箇所を局所化することにもつながります。長期間放置された大規模なPRほど、マージ時のコンフリクトが深刻化しやすいことを意識しておきましょう。

このように、日々の作業の中で意識できる小さな工夫の積み重ねがコンフリクトの未然防止につながります。

ただし、コンフリクトを過剰に恐れて回避しようと無理しないことも、同じくらい重要です。コンフリクトが発生した際の対処法やチーム内での情報共有のあり方をあらかじめ話し合っておくことで、無用な混乱やストレスを減らすことができます。

おわりに

本記事では、チームでGitを活用する際に気をつけたい運用ルールや、よくある課題とその対処法について解説しました。Gitの使い方は単なるコマンドの知識だけでなく、チームの文化やコミュニケーションのあり方にも深く関わってきます。

すべてのチームにとって正解となる運用ルールは存在しませんが、少しの工夫や共通認識を持つことで、開発体験はぐっとスムーズになります。

本連載では、CI/CDの仕組みや自動化ツールとの連携、実際のトラブル事例など、より実践的な内容にも踏み込んでいく予定です。ぜひ、今後も継続してお読みいただければと思います。

日本仮想化技術株式会社
Sierやベンチャー企業を経て、現在は日本仮想化技術でDevOps支援サービス「かんたんDevOps」のDev側を担当。「DevOpsを通じて開発者体験を最大化する」をミッションに理想的な開発環境の実現を目指して技術調査や仕組み作りを行っている。

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