連載 [第56回] :
  月刊Linux Foundationウォッチ

CNCFとLF Researchがクラウドネイティブ技術の採用状況やトレンドを調査したレポート「Cloud Native 2024」を公開

2025年5月30日(金)
吉田 行男

こんにちは、吉田です。今回は、Cloud Native Computing Foundation(CNCF)とLF Researchが公開した調査レポート「Cloud Native 2024 コード、クラウド、そして変革の10年に迫る」について紹介します。

【参照】Cloud Native 2024 コード、クラウド、そして変革の10年に迫る
https://www.linuxfoundation.jp/cncf-annual-2024-jp-pdf

CNCFは、2015年にクラウドネイティブ技術の急速な発展と、そのエコシステムを健全に育成する必要性から設立されました。このレポートはクラウドネイティブ技術の採用状況やトレンド、特にKubernetesの普及とその影響についての調査結果をまとめています。

クラウドネイティブ技術の採用状況

クラウドネイティブ技術の採用率は2024年に89%に達し、全体的な普及が進んでいます。特にKubernetesの利用が広がり、企業のデプロイメント実践が進化しています。また、組織規模別のクラウドネイティブ採用率では、組織の規模に関わらず均等に進んでいるようです。特に大規模組織だけでなく、中小規模の企業でも同様の傾向が見られています。

地域別のクラウドネイティブ技術の導入率ではヨーロッパとアメリカがリードしており、アジア太平洋地域も急速に追いついています。特にアジア太平洋地域の企業の導入率が大幅に向上しています。これは、日本にいる我々にとって大きな課題と言えるでしょう。

クラウドサービスの利用状況

企業は複数のクラウドサービスプロバイダーを利用する傾向が強まっており、特にハイブリッドクラウドの利用が増加しています。これにより、柔軟性と可用性が向上しています。また、37%の企業が2つのクラウドサービスプロバイダーを利用しており、ハイブリッドクラウドの利用を計画している企業は11%で、他のクラウド利用計画の2〜3倍となっています。これは、クラウドサービスに対する信頼性が高まっていることを示しているのかも知れません。

コンテナの利用状況と成長

2024年には、組織の91%がコンテナを本番環境で利用しており、2023年の80%から14%の成長を示しています。また、コンテナの平均使用数も2023年の1,140から27%増加し、2,341に達しています。

コンテナ利用における課題の変化

しかしながら、コンテナ利用に関して、さまざまな課題が挙げられています。2023年はセキュリティ(42%)と複雑さ(38%)が最大の課題でしたが、今回の調査では開発チームとのカルチャーの課題が46%で最大の問題とされ、CI/CDやトレーニング不足も重要な課題として挙げられています。ちなみに、前回の大きな課題であったセキュリティや複雑さは減少しています。

Kubernetesの利用状況と成長

2024年にはKubernetesの本番環境での利用率が80%に達し、2023年の66%から20.7%の大きく成長しています。

CNCFプロジェクトの利用状況

CNCFのグラデュエートプロジェクトの中では、Kubernetesが85%の利用率を誇っています。また、Helm、etcd、CoreDNS、Cert Manager、Argo などのKubernetesと密接に関連していているプロジェクトも高い評価を得ています。

CNCFプロジェクトを本番環境で使用する場合の課題

CNCFプロジェクトを本番環境で使用する場合の課題として、プロジェクトの活動停止リスクが46%で最大の懸念として挙げられています。次に、理解や運用が複雑すぎる(46%)が前年比13%の増加となっています。さらに、サポート文書が不足している(45%)が5%増加しています。

しかしながら、セキュリティ脆弱性に関する懸念は2023年から2024年にかけて7%減少しており、コードのバグに関する懸念も6%減少しています。クラウドネイティブプロセスが一般的になってきたことにより、技術や実装に関する懸念は自然に変化したと考えられます。

セキュリティとコンプライアンスの進展

2023年と比較して、ソフトウェアのセキュリティ向上が著しく、活発なコミュニティの確認が60%に達しています。具体な評価手法として、プロジェクトに活発なコミュニティが存在することを確認している割合は60%で、2023年の49%から増加しています。また、既知の脆弱性を持つオープンソースパッケージを検索するためのツールを使用している割合は57%で、2023年の51%から増加しました。

さらに、リリースやコミットの頻度を確認している割合は52%で、前年比10%増加、リポジトリの評価やパッケージのダウンロード統計を確認する割合は37%(前年比8%増加)、登録情報やパッケージマネージャーの情報を活用する割合は33%(前年比27%増加)となっています。

WebAssemblyの採用状況と課題

WebAssemblyの経験がある回答者は34%で、特定の分野での可能性は高いものの、採用は停滞しています。その主な理由は実装の複雑さ(23%)と適用性の欠如(48%)で、ツールの改善や言語サポートの強化が必要とされています。

技術ロードマップの概要

このレポートでは、調査結果に続いて、以下のような技術のロードマップの概要についても記述しています。

  • Service Mesh
  • ステートフルアプリケーション
  • Serverlessアーキテクチャ
  • インフラストラクチャプラットフォーム

これらの技術の中から、興味のあるものをご覧いただけると良いと思います。

CI/CDの普及と成長

最後に、継続的インテグレーション(CI)と継続的デリバリー(CD)の手法について記述されています。これらの手法が多くの組織で採用されており、2024年には使用率が大幅に増加していると報告しています。具体的には、60%の組織がほとんどのアプリケーションでCI/CDツールを使用しており、2023年の46%から2024年には60%に増加。CI/CDツールの使用率が全体的に成長しています。

それでは、具体的にどのようなツールが使われているのでしょうか。

上図にあるように、GitHub Actions、Argo、Jenkinsなどが上位にランクされています。また、これらの使用率もGitHub Actionsが19%増加、Jenkinsが40%増加、GitLabが20%増加、Azure Pipelinesは3%の増加などと大きく成長しています。

また、インフラストラクチャの自動化手法であるGitOpsは、この原則に基づくプラクティスやツールの採用が進んでおり、多くの組織がその実践を取り入れています。

まとめ

このように、本レポートではクラウドネイティブに関連する技術が広まっていることが実感できます。「これからどのような技術が主流となるのか」「どのような手法を取り入れる必要があるのか」といったことについて課題を感じておられる方は、このレポートをお読みいただくことをお勧めします。

2000年頃からメーカー系SIerにて、Linux/OSSのビジネス推進、技術検証を実施、OSS全般の活用を目指したビジネスの立ち上げに従事。また、社内のみならず、講演執筆活動を社外でも積極的にOSSの普及活動を実施してきた。2019年より独立し、オープンソースの活用支援やコンプライアンス管理の社内フローの構築支援を実施している。

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