キャリアのスタート台に立ったら、まず仕事に取り組むための「マインド」をかためる

2025年5月23日(金)
小林 道寛 (こばやし みちひろ)伊藤 隆司(Think IT編集部)
第10回の今回は、新年度開始からもう1ヶ月あまり、GWも終わって新しい配属や業務も決まって「さあ、頑張るぞ!」と意気込む皆さんに、ぜひ意識しておきたいことなどを語っていただきます。

今の時代、若手エンジニアが勉強したいと思えば、いくらでも教材や資料はインターネットで手に入る。だがそんな便利な時代であっても、やはり先輩たちの生きた経験に裏打ちされたアドバイスは貴重だ。本連載では、情報インフラ系SIerとしての実績の一方で、現場で活躍できるエンジニア育成を目指した独自の技術研修「BFT道場」を展開。若手技術者の育成に取り組む、株式会社BFT 代表取締役 小林道寛氏に、ご自身の経験に基づくスキルアップのヒントや、エンジニアに大切な考え方などを語っていただく。

若手エンジニアだった頃、新年度の課題は
「チームで人を育てるには?」だった

皆さん、こんにちは。株式会社BFTの小林道寛です。

今回のテーマは「新年度に当たって若手エンジニアに伝えたいこと」です。この記事が公開される頃には、新卒の人ならば研修も終わり、いよいよ本腰を入れて技術者としてのキャリアを始めようと思っているかもしれません。

私がまだ若手エンジニアだった頃、毎年、春というのは「後輩ができる」時期でした。当時私は、東京のあるテレビ局の情報システム部門で、インフラ基盤を構築・設計・運用するコンピュータセンターという部署にいたのですが、このセンターには毎年新卒者が入ってきました。

だいたい自社の新人が2人と、パートナー企業の社員も2人くらい入ってきます。受け入れる側の先輩である私は「今年はどんな子が入ってきて、どうやって彼らと関係を作っていくのか」を、いつも熱心に考えていました。だから、今考えると「新人をどう育てるか」にもまして「彼らを含めたチームをどう作っていくか」が、一番大切なテーマだったと思います。

というのも「チームで仕事をする」以上、チームづくりが大切なのは当たり前ですが、人材育成という視点から見た場合、いかに「チームで人を育てる」体制を実現するかが非常に重要だからです。

だって、仮に自分がチームリーダーだったとして、毎年新人が来るたびに自分が手取り足取り教えるなんて、とても大変でやりたくないですよね。それ以前に、そんなリーダー1人に育成の仕事が集中するのは、優れたチームとは言えません。

いちいち指示しなくても、去年新人として教えてもらった人たちが「今年は自分たちが教える番だ」という自覚を持って新卒の後輩たちを教えていく。それも単に知識や技術を教えるのではなく、新たに「仲間」になるために導いていけるチームワークが、毎年新人を迎える私たちには不可欠だったのです。

新しいチームの仲間になるための必須要件は
「マインドを共有できること」

では「仲間になる」とは、具体的にどんなことでしょうか。それは、ひとことで言えば「マインドを共有できること」です。仕事をするうえで基本となる考え方や価値観、目標を全員が理解し、納得したうえで先輩も新人も協力しながら目標に向かっていけることと、言い換えて良いでしょう。

当時の仕事では、親会社であるテレビ局のOAやシステムの運用を担当していたので、トラブル対応も重要な仕事でした。この時に大切なのが「テレビ局の人たちの円滑な業務推進に役立たなくてはいけない」というマインドです。これがないと、いくら技術やスキルを磨いても、それらをどう生かすかが理解できない。それを新人の育成でも非常に大切にしていたのが、当時の私の「新年度」なのです。

マインドと言っても、エンジニアとしての信念とか哲学みたいな抽象的な話ばかりではありません。むしろこうした現場の担当エンジニアというのは、もっと泥臭い、雑用に近い仕事も多く、実はそれがとても大事だったりします。そういった作業を通じて「自分たちはどういうマインドでシステムを作り、運用していくべきか」を新人たちに理解してもらえるよう、毎年度の始めに力を入れて取り組みました。

もちろん最初からすんなり行くわけではありません。色々な人がいます。何も社会を知らずに入ってきて「要は作業をこなせるようになればいいんだろう」と、軽く考えている人も少なくありません。

そういう彼らに対しても「テレビ局の現場の人たちを支えることが私たちにはとても大切な仕事であって、テレビ局グループ全体のITリテラシーを高めていくために貢献するという意志を、まず自分たちが強く持つべきだ」と根気よく説き続けることで、うまく次のステップにつなげていけたと思っています。

「先輩・後輩」で教え合う試みが
「順送りに育てる」仕組みを生んだ

ここからは、現在の当社の新人教育やマインドセットの育成について、少しお話ししましょう。一般に新卒者というと、教える側も本人たちも「実践で使える技術や知識を」となりがちですが、やはり最初に「心をしっかり作ること」が何にもまして大事だと私は考えています。

「いきなり精神論か」と言うかもしれません。では、今や企業経営の世界で必須の「パーパス」「ビジョン」「ミッション」ではどうでしょう。パーパスは自分たちが何のためにいるのか。ビジョンはそのパーパスから導き出される目標。ミッションはそれを実現するための取り組みです。そして私の言う「マインド」とは、これらを各人が「自分ごと」として理解し、共有するための共通基盤とでもいうものです。

実は、すでに当社の新人教育も、知識だけを学ぶ「新卒研修」ではなく、マインド醸成も含めて「オンボーディング」という名称に変えています。もちろん、これも最初からうまくいったわけではありません。試行錯誤を経て現在に至っています。

最初の頃は、年配社員の優秀なベテラン勢で教育チームを作りました。期待した成果も挙げられたのですが、私としては今ひとつモヤモヤとした思いが残りました。というのも、ベテランは技術を教えるのが非常に上手なので、受け手の側は「黙っていても教えてもらえるんだ」と受け身の気持ちになってしまうんですね。

そこで思い出したのが、上でお話ししたテレビ局時代です。先輩がその年に入った後輩を教える。新人の側は「自分は来年になったら先輩になって教えるのだ」と自覚しながら教わっていく。そのサイクルを教育の仕組みとして確立するのが、実は大事なのではないかと気づいたのです。

そこで教育担当を若手社員に交代して「先輩・後輩」の関係で教え合う仕組みに変えました。もちろん先輩と言っても、ちょっと前までは教わる側だったのですから、そんなに高度な知識や技術はなくて良い。むしろ後輩と一緒に学ぶくらいの気持ちでやったところ、そこから期待どおりの、とても良い連鎖が生まれたのです。

その結果、教わっている新人たちにも「来年は自分たちがやらなくては」という意識が生まれ、「自分たちもやってみたい」という手も挙がりました。現在、当社のほとんどのオンボーディング担当者は、私からお願いしたのではなく、自分たちから希望してくれた人たちです。これは、ぜひ自慢したいことの1つです。

漠然とした「気持ち」で終わらない
強い意志を持った技術者になろう

さて、ここまで私の体験談を元に、若い人、特に新卒者がキャリアを始めるうえで、心の軸をしっかり持っておくこと=マインドの大切さをお話ししてきました。「じゃあ、そういうマインドを自分で育てるには、どうしたら良いのか?」ということになりますね。

最初に押さえておきたいのは、ひと口にマインドと言っても「気持ち」と「意志」は違うということです。意志とは、その先に「志=目標」があるものです。

例えば、あなたが「日本一のLinuxエンジニアになろう」という「志=目標」を抱いたとしましょう。それを実現するための勉強や努力、諦めずに頑張ること……それらを支えるのが「意志」だと言えば分かりやすいでしょうか。

もちろん、そこまで具体的でない「気持ち」=「皆が認めてくれる技術者になりたい!」という希望や願望はとても大事です。むしろそれが出発点と言っても良い。でも気持ちは漠然としたものだけに、日々の仕事が忙しいとつい流されてしまいがちです。そうならないためには、やはり強い意志の力が必要です。

もちろん「気持ち」の良い人は、お客様や仲間からも好かれます。気立てが良いとか、人柄が良い人ですね。でも、エンジニアという職業を選んだからには、単なる「良い人」で終わるのはもったいないと思いませんか。ここはやはり強い意思を持って、自分の決めた「志=目標」に向けて努力する人になっていってほしい。少なくとも当社の社員には、皆そうあってほしいと願っています。

「志を持った若い人たちに選ばれる会社」を
作るのが経営者の務め

今回は「新年度に当たって若手エンジニアに伝えたいこと」というタイトルのせいか、ちょっと「こうしてほしい」「こうあるべき」といった話が続きました。でも若い皆さんからすれば「そうは言うけど、自分が本当にやりたい仕事ばかりではない」「周囲も志うんぬんという感じではなく、1人で張り切っても浮いてしまう」という意見もあるでしょう。

それは、本当にそうです。だからこそ、私は経営者としてそうした志を持った若い人たちに選ばれる会社を作らなければばならないと自戒しています。今、日本は、どんどん若い人が減ってきているのはご存じの通りです。もう少し先にはさらに新卒者の数が減るという予測もあります。

若年労働人口の減少に対応するために、この国はAIなどのテクノロジーを活用して、これまで人がやっていたことを機械やシステムに移行して行く必要があります。これは好きとか嫌いではなく、そうせざるを得ない大きな時代の流れです。

その意味でも今、「人」という資源が非常に大切な時代になっています。その中で若い人たちの気持ちを盛り上げ、志を実現するための強い意志を育てていく。それがこの先、企業経営者の最も重要な課題になるのではないかと、私はひそかに思っています。

幸い当社では、この2025年度も40名くらいの新社会人が入ってきてくれました。オンボードの一環でライトニングトークのようなことをやるのですが、横で話を聞いていると大いに期待を抱かせてくれる人たちが揃っていると感じます。私や先輩社員も自分たちの文化や風土をしっかりと共有して、彼らに選ばれ続ける会社になれるよう、努力しなくてはいけないと思っています。

どんな逆境にあっても
「しぶとく、あがき続ければ」道は必ず開ける

もう1つ、自分が人を育てる上でいつも思っていることに「環境が絶対」というものがあります。人というのは、しかるべき環境に置かれて初めてしかるべき行動が取れる。だからこそ、経営者は意欲や意思を持った社員が自分から動くことができる環境=会社の風土や文化、組織や人事体制、給与体系や教育制度などを、しっかりと考えて整備していかなくてはなりません。

ところが、そのように話したところ、ある人から「今、人手不足の中で、そうした環境がほぼ与えられなかった就職氷河期世代の救済策が議論されていますが、小林さんはどう考えていますか」と聞かれました。

たしかに大きな時代や社会の動きのもと、自分の意志ではどうにもならない状況というのはあります。せっかく意欲や夢を持って社会に出ようとしたとたん、どこにも行く場所がなかった辛さは、私たちの世代の想像が及ぶところではないのかもしれません。でも、あえてそういう方たちには「しぶとく、あがくのが大事」だとお伝えしたいと思います。

私の好きなイソップ寓話に、3匹のカエルの話があるのですが、この3匹があるとき牛乳の入った壺に落ちてしまう。1匹は悲観的なカエルですぐに諦めて、溺れてしまった。2匹目は楽観的で「そのうちなんとか助かるだろう」と思っているうちに、これも溺れてしまった。3匹目だけが「何とか助かろう!」とあがき続けているうちに、その動きで牛乳がバターになって固まり、溺れずに助かった……というお話です。

イソップ寓話というのは、紀元前6世紀くらい、今から2600年くらい前に作られたと言われています。それが現在に伝わっているというのは、やはりこのカエルたちの話を読んで「やっぱり、しぶとくあがないとダメだよな」と共感した人が大勢いたのではないでしょうか。もちろん21世紀の私も、その1人です。

このカエルたちの寓話から伝わってくる教訓は、私自身の経験から言っても、十分信用するに足るものです。未熟でも逆境でも諦めずにあがき続けたから、今なんとかここにいるのだと思っています。「じゃあ、自分も今年度はなにか志を立てて、そのために“あがいて”みるか!」と思った方は、ぜひチャレンジしてみてください。

さて、次回はどんなテーマを取り上げましょうか。よろしければ、どうぞ引き続きお付き合いください。

著者
小林 道寛 (こばやし みちひろ)
株式会社BFT 代表取締役社長
1991年に株式会社フジミックに入社。親会社フジテレビジョンの情報システム局で、親会社やグループ会社のシステム構築と運用を経験。2004年に株式会社BFTへ入社。エンジニア部門のマネージャを経験後、取締役に就任。2015年に代表取締役社長に就任。システムづくりを離れ「人とシステムをつくる会社」をつくり続けている。
著者
伊藤 隆司(Think IT編集部)
株式会社インプレス Think IT編集部 担当編集長
IT系月刊誌、資格系書籍、電子書籍、旅行パンフレット等の企画・編集職を経て現職。Think ITのサイト運営と企画・編集、「CloudNative Days」の運営に携わりながら、エンジニア向け書籍の企画も手がける。テクノロジーだけでなく、エンジニアの働き方やキャリアップなどのテーマに造詣が深い。

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