アトラシアンが目指すAIとの協働の仕組み作り~コーディングAIエージェント「Rovo Dev」などを提供開始

アトラシアンは、2025年10月23日にコーディングAIエージェント「Rovo Dev」と、ITサービスマネジメントソリューション「Atlassian Service Collection」の一般提供開始を発表した。クラウド化・AIとの協働を軸に、業務全体を支えるプラットフォームへ脱皮しつつあるアトラシアン製品は、どんな未来を目指しているのだろうか。本記事では、新製品の詳細に加え、その背景にあるコンセプト「System of Work」を紹介しながら、アトラシアンが描くAIとの協働のあり方を探っていく。
AI時代のチームワークを実現する
「System of Work」
最初に、アトラシアン株式会社 朝岡 絵里子氏は、アトラシアンの事業の現状について紹介した。開発者向け製品から出発した同社の事業だが、現在は、ソフトウェア開発、サービスマネジメント、ワークマネジメントという3つの大きな市場をカバーしている。
「我々は創業当初から『あらゆるチームの可能性を解き放つ』ことをミッションとして掲げてきた。我々が提供したいのは、全社が一丸となって成果を出すための仕組みを作ることだ」(朝岡氏)
デジタルとビジネスの融合、そしてAIの登場によって、成果を出すための業務の仕方は大きな変化を迫られていると、朝岡氏は言う。そこで、AI時代に最適化されたチームワークの仕組みとして同社が掲げるのが、System of Workの実現だ。
System of Workは、以下の要素からなる。
(1)作業と目標の連動:業務タスクと目標との整合性が取れているかどうか
(2)計画と進捗の把握:全社レベルで業務計画と進捗状況が連携できる体制が構築されているかどうか
(3)社内ナレッジの活用:暗黙知から形式知への変換など、社内でナレッジがきちんと記録されているかどうか
これらは業務を円滑に進めるだけでなく、AI活用にとっても欠かせない要素だ。なぜなら、AIが活動するには、適切な「文脈」を提供する必要があるからだ。そして最後の要素である
(4)AIチームメイト
を組み込むことで、組織の力を最大限に発揮できる土壌が整うのだ。
朝岡氏は、アトラシアン製品がどのようにチームワークを支援するかを示す事例として、F1チームのウィリアムズの取り組みを紹介した。アトラシアンは、ウィリアムズのオフィシャルタイトル&テクノロジーパートナーとして、チームのDXも支援している。F1では、レース中に1,000人規模のメカニックのチームワークが求められる。そこで同チームは、アトラシアン製品を導入し、System of Workに基づく協働の仕組みを構築した。その結果、チームの順位向上など具体的な成果に繋がっているという。
このSystem of Workを製品面から実現するために、アトラシアンが推し進めているのがクラウド化だ。Bitbucketなど一部の製品を除き、オンプレミス版の製品は2029年にEOL(End of Life)となる。そしてこれまで製品ごとに分断されていたアトラシアンのツール群は、今後すべてCloud Platformのアプリとして統合される。Cloud Platformが提供するのは、検索やディレクトリといった共通機能だけではない。最も重要なのが、Teamwork Graph(ナレッジグラフ)だ。これは、組織全体のナレッジと活動のデータを統合し、AIに適切な文脈を提供する基盤となる。
さらにアプリの提供の仕方も、従来のように個別のサービスだけでなく、ユーザーの職務や組織の役割に応じて、複数のアプリをパッケージ化した「Collection」としても提供するようになる。例えば、基本的なコラボレーションアプリはTeamwork Collectionとして、経営層向けのアプリはStrategy Collectionとして提供される。
そして、Teamwork Graph上で、アプリ横断で動作するAIエージェント「Rovo」が、AIチームメイトとして機能する。Rovoは、Teamwork Graphから取得した組織の目標やタスク、ナレッジといった文脈を活用することで、単なる汎用AIではなく、個々のチームやタスクに合わせたパーソナライズされた実用的なAI機能を提供するという。これらのアトラシアン製品の変革は、チームがAIを効果的に活用するためでもあるのだ。
続いて、ユーザーの声を代表してKDDI Digital Divergence Holdingsの木暮 圭一氏が、KDDIグループにおけるアトラシアン製品の活用事例を紹介した。
KDDIグループは2013年からアトラシアン製品を導入しており、2025年にクラウドへの移行をほぼ完了したという。木暮氏は「Rovoの登場により、クラウドへの移行が非常にやりやすくなった」と語る。
具体的な成果として、大規模サービスにおける運用の半自動化、ホワイトボード機能による整理作業の自動化、そしてJira Service ManagementとRovoを組み合わせることで1.5人月で4000人のサポートを実現したことなどが紹介された。
ツールの中にAIが溶け込む
AIエージェント「Rovo」
最後に、アトラシアン株式会社 渡辺 隆氏が、アトラシアンのAIエージェント「Rovo」と新発表の製品について、デモを交えて紹介した。
Rovoを構成する主な要素は「Search」「Chat」「Studio」の3つからなる。Rovo Searchは、アトラシアン製品だけでなく、Google DriveやSlackなどの外部SaaSを含むエンタープライズサーチを実現する。Rovo Chatは、汎用AIと同様のチャットインターフェースを通して、社内外のデータやアップロードしたファイルをもとに、ドキュメント生成やディープリサーチを行い、結果をConfluenceに出力するといったことが可能だ。さらにRovo Studioを使うと、ノーコードでカスタムAIエージェントを作成できる。
そして、Rovoには事前に特定のタスクのために用意された「スキル」が用意されている。例えば「Jiraのタスクを更新する」「Slackにメッセージを送る」といった複数のスキルを組み合わせることで、Rovoに複雑な作業を行わせ、エージェンティックな業務の自動化が可能になる。さらにMCPサーバーを経由すれば、CanvaやHubspotといった外部のSaaSのAIエージェントと連携することもできる。
「アトラシアン製品の中にAIが溶け込むことで、様々なAIやツールを行き来する必要がなくなり、コンテキストスイッチの負担を大幅に減らせた」(渡辺氏)
今回新たに、一般提供が開始されたのが「Service Collection」と「Rovo Dev」だ。
Service Collectionは、社内外の顧客サービスに携わる担当者向けのパッケージだ。ITサービス、人事、総務など幅広い業務に活用することができる。既存のJira Service Managementに加えて、社外の顧客サポートに特化した新アプリCustomer Service Managementと、社内資産をデータベース化するAssetsを組み合わせたもので、Rovo ServiceやRovo OpsといったAIエージェントと連携する。これにより、社内サービス管理と顧客サポートを1つのプラットフォームで提供し、開発・運用・サポートの分断を解消することを目指している。実際にアトラシアンのサポート部門では、Customer Service Managementの利用により、平均解決時間が大幅に短縮し、顧客満足度が向上したという。
開発者向けのSoftware Collectionはまだ提供開始していないが、ソフトウェア開発者向けのコーディングAIエージェントRovo Devが先行してリリースされた。Rovo Devはコード生成だけでなく、計画立案から設計、実装、デプロイ、運用に至るまで、ソフトウェア開発ライフサイクル全体をサポートする。JiraやConfluenceと横断的に連携することで、チケットやビジネス目標、ドキュメントなど幅広いコンテキストに基づいたサポートを提供するのが最大の特徴だ。利用環境は、CLI(コマンドラインインターフェース)を中心にBitbucketやGitHubなど多様な開発環境をサポートしており、開発者は普段使用するツールを切り替えることなく作業に集中できる。例えば、Jiraのタスクについて実装を指示すると、コード生成、テスト、ステータス変更まで、一連のワークフローをAIエージェントが自動で実行することができる。
アトラシアンが目指すAIとの協働
このように、アトラシアンは特定の機能に特化したツールから、企業全体が連携して成果を出すための業務システムへと変革するべく、製品体系の刷新とクラウドプラットフォームの強化を推進している。
今後の動きとして注目されるのは、ブラウザ開発企業The Browser Companyの買収だ。買収の背景には、現代のビジネス業務の大半がブラウザ上で行われている現状がある。様々なSaaSを利用しているとタブやウィンドウを大量に開くことになり、収拾がつかなくなる。同社が開発するブラウザは、AI技術を活用してタブの整理や関連タブのグループ化を自動化し、集中できる作業環境を実現する。アトラシアンは同技術を取り込むことで、より統合的な業務環境の構築を目指すという。
「アトラシアンが目指しているのは、AI時代の働き方をサポートするための革新を今後も続けていくことだ」(朝岡氏)
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