連載 [第2回] :
  Fin Ops X Day Tokyoレポート

FinOps X Day Japanからデジタル庁のFinOps活用に向かう道筋を解説するセッションを紹介

2025年10月8日(水)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
FinOps X Day Japanからデジタル庁のFinOps活用に向かう道筋を解説するセッションを紹介

The Linux Foundation配下のプロジェクトFinOps Foundationが開催したFinOps X Day Japanのキーノートから、デジタル庁の楠正憲氏によるプレゼンテーションを紹介する。これはJR Storment氏によるキーノートの一環として行われたセッションで全体的に見れば、デジタル庁の観点からガバメントクラウドへの移行に関しての途中報告といった内容であった。FinOps的な視点で重要なのは、ガバメントクラウドへの移行における費用面の対策の中に「令和7年度中にFinOpsガイドを作成する」という文言が含まれていたということだろう。

プレゼンテーションを行う楠氏

プレゼンテーションを行う楠氏

スライドはいかにも役所のスタッフが用意したと言えるスタイルで、すべての要素を漏れなく入れ込んで非常に文字数の多いのが特徴的だ。このスライドでは令和7年度、つまり2025年度の「デジタル社会の実現に向けた重点計画」を紹介している。

令和7年度の重点計画の概要を紹介

令和7年度の重点計画の概要を紹介

この表の中で(3)競争・成長のための協調という項目の3番目と4番目のアイテムに「国の情報システムの最適化」「地方公共団体情報システムの統一・標準化」という項目があり、その中のより細かな作業アイテムとして「FinOpsガイド作成」が取り上げられているという流れになっている。

③と④の具体的な項目をズームイン

③と④の具体的な項目をズームイン

「国の情報システムの最適化・地方公共団体情報システムの統一・標準化」の具体的な作業項目が1から4まであり、その4番目の「総合的な対策」の細目にFinOpsガイド作成が存在する。

国の情報システムの最適化の詳細な項目を紹介

国の情報システムの最適化の詳細な項目を紹介

このスライドでは「見積チェックリスト、アプローチガイドの拡充等」の具体例としてFinOpsガイドが明記されている。文字だらけの役人仕様のスライドでは見辛いだろうという配慮の上で、FinOpsだけを赤字にして目立つようにしているのがポイントだろう。

「見積チェックリスト、アプローチガイドの拡充等」の具体例がFinOpsガイド

「見積チェックリスト、アプローチガイドの拡充等」の具体例がFinOpsガイド

ここからはFinOpsのカンファレンスということで、ガバメントクラウドの費用面に絞って解説を行った。このスライドでは自治体が現行のシステムからクラウドに移行した際にどのような費用面での増加要因が想定されるか? を解説している。

自治体システムがガバメントクラウドに移行後の費用面の増加要因を解説

自治体システムがガバメントクラウドに移行後の費用面の増加要因を解説

右の図の赤字で書かれた内容が増加の構造的な要因であると示されているが、費用増になりそうなネガティブな要因を可能な限り集めてみたという内容で、よく見ると「各種対策前」と明記されていることからも最悪の状態をあえて提示したという内容となっている。

自治体のサイズによって移行前と移行後の経費増大の要因を分析

自治体のサイズによって移行前と移行後の経費増大の要因を分析

この表では自治体のサイズによって使っているシステムが異なるために、経費増加の要因はサイズにより異なることを分析している。

中規模の自治体では移行後に経費が3.8倍に増大する予想であることを解説

中規模の自治体では移行後に経費が3.8倍に増大する予想であることを解説

ここでは中規模から小規模の市町でどのように経費が積み上がっていくのかを解説。27万人規模の市だと移行後は約3.8倍の経費が必要だという。人口が約27万人の市とは、具体的には福島市、盛岡市、津市などが相当する。

また8万人程度の市であれば、経費は約2.3倍になるという。こちらは近江八幡市、高山市などが相当する。

約8万人の市だと2.3倍の経費増となる想定

約8万人の市だと2.3倍の経費増となる想定

さらに人口1万人の小規模な町では、1.8倍の経費増が想定されているという。

人口1万人の町でも1.8倍の経費増となる

人口1万人の町でも1.8倍の経費増となる

この3つの例は最大限にマイナス要因を積み上げた例ということで、ここからパブリッククラウドの経費をいかに最適化するのか? についてFinOpsの知見を使うということになる。

最後に重点計画の1番目と2番目の項目に出てきたAIについて、簡単に解説を行った。この計画では「AIの活用環境の整備と利活用の促進」という項目が最初に挙げられている。「AIフレンドリーな環境の整備」という項目では「AI・デジタル等テクノロジーの徹底活用を阻む制度の見直し」という項目が挙げられている。この項目がここに入っていることこそ、現行制度が阻害要因になることを想定していること、現にそういう場面に直面しているであろうことなど、デジタル庁の苦労の一端を表していると言えるだろう。

生成AIに関する重点項目を再度紹介

生成AIに関する重点項目を再度紹介

生成AIの利用の促進という部分では「源内」という庁の職員に解放されている生成AIの検証環境を紹介。チャットや文章作成、要約、校正、翻訳、Webコンテンツ抽出など現行の生成AIが得意な機能が並べられており、外部のサービスに頼らなくてもある程度の機能を実行することが可能になる。

源内の画面例を見せて生成AIの検証環境を紹介

源内の画面例を見せて生成AIの検証環境を紹介

この生成AIの検証環境については、すでにデジタル庁からブログ記事の形態で2024年度の検証結果が開示されている。

●参考:行政における生成AIの業務利用に関する技術検証結果を公開(2024年度実施)

さらに楠氏が個人で開発を行っている「行政事務標準文字検索」というアプリケーションを紹介。これは日本語の氏名などに多数存在する外字を検索するというもので、この画面の例では「渡辺」という姓に使われる「辺」という漢字が60種類も存在することを示している。このようなアプリケーションの開発には楠氏のコンピュータオタクとしての特性が活かされているようで、セッション後の会話ではさまざまな生成AIサービスやクラウドを個人で試していると語っていた。デジタル庁の一員として、プライベートな時間でも最新のテクノロジーの動向には気を配っていることがわかる。

全体としてFinOpsのカンファンレスであることを意識して費用面に特化した内容となったが、デジタル庁としてパブリッククラウドの費用増加が企業だけでなく官公庁、自治体のシステムにも大きな影響を与えていることを改めて知る良いプレゼンテーションであった。何よりも閣議決定としてFinOpsガイドの作成が明記されたインパクトは大きい。これからどのようなガイドが作成されるのか、継続して注目していきたい。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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