DevRelでもAI関連のセッションが中心に「DevRelCon New York 2025」参加レポート

2025年8月14日(木)
中津川 篤司
今回は少し趣向を変えて、7月17〜18日に開催されたDevRelに関するグローバルカンファレンス「DevRelCon New York 2025」の参加レポートをお届けします。

はじめに

DevRelCon」は、DevRelに関するグローバルなカンファレンスで、2016年にロンドンで始まりました。その後サンフランシスコや中国、チェコ、インドそして日本でも開催され、2025年は7月17〜18日にニューヨークで開催されました。

単純にセッションだけのレポートではDevRelConの魅力が伝わらないと思うので、今回はセッションの内容を踏まえつつ、DevRelConの雰囲気や参加者の様子なども交えてレポートします。

「DevRelCon New York 2025」の概要

はじめに「DevRelCon New York 2025」(以下、DevRelCon NYC 2025)の概要を紹介します。

項目 内容
カンファレンス名 DevRelCon New York 2025
開催日 2025年7月17〜18日
URL https://nyc.devrelcon.dev/
開催場所 ニューヨーク・ブルックリン Industry City
参加者数 約200名
セッション数 約40セッション

ニューヨークでは、2024年からMLH(Major League Hacking)という企業が開催しています。DevRelConはもともとイギリスのHoopyという企業が開催しているのですが、ニューヨークはフランチャイズモデルとなっています。

ニューヨークについて

日本に暮らしていると「IT企業」と言えば西海岸のイメージがあります。サンフランシスコやシリコンバレーが中心で、ニューヨークは金融の街という印象が強いのではないでしょうか。しかし、最近ではニューヨークもテクノロジー企業が集まる場所として注目されているようです。

例えば、IBMやDatadog、MongoDBなどの企業がニューヨークに本社を置いています。またスタートアップも多く、テクノロジー系のイベントも頻繁に開催されているとのことです。

そして、日本でよく耳にするのがニューヨークの物価についてです。個人的には今回の滞在でほとんど買い物をしていませんが、確かに日本よりも数割増しかも知れません。なお、地下鉄は1回2.9ドルで、430円相当です。これは全区間乗車の料金で移動距離にはよらないのですが、それでも割高に感じますよね…。

ブルックリンの街並み

治安については年々変化があるようです。「治安が悪い」と噂があった地下鉄は、昼間であればそれほど問題ないように思います。24時間運転しているので夜間移動にも利用できますが、これはなかなか勇気が必要そうです。

あと「高い」と有名なのが宿泊(ホテル)です。これは確かに高いです。Booking.comで調べると、いわゆる日本で言うビジネスホテルのレベルでも1泊3〜4万円します。今回はAirbnbを利用したので割安で泊まれましたが、やはりそれなりの金額はしました。

会場について

今回の会場は、ブルックリンの「Industry City」という建物でした。1階は日本のコンテンツが多く、スーパーや飲食店、ダイソー、ゲームセンターなどが入っています。それもあってか、このブルックリンの地域には、多様な人種の人たちが集まる場となっています。

今回の会場となった「Industry City」

会場と言うかIndustry Cityは建物自体がかなり大きく、受付にたどり着くのも大変でした。建物に入ったところからカンファレンスのバナーが立ててあり(冒頭の画像)会場までの道のりを示していましたが、私は初日に違うルートで入ってしまったため、かなり迷いながら到着しました。

そのせいか、DevRel Conの公式から、Industry Cityに入って会場までの道順を案内するための動画も公開されていました。

モーニングの提供も

DevRelConでは、カンファレンスの開始前にモーニングを提供するのがフォーマットとなっています。ニューヨークでは、コーヒーなどの飲み物とベーグルが提供されました。参加者はこれらを食べつつ飲みつつ、イベントの開始を待ちます。

カンファレンス開始前の雰囲気

参加者の中には多少の顔見知りもいますが、大半は知らない人でした。私自身が今回初めてDevRelCon NCYに参加したということもあるのですが、数年前のようにヨーロッパやアメリカ各地から参加する人は少なくなっている印象です。これは、これまでの本連載でも何回か書いてきましたが、コロナ禍の影響でオンライン化が進んだり、DevRelに対する予算が削減されていることが影響しているのかもしれません。

そのため、今回の参加者はニューヨークや近隣の州からの参加者が多かったようです。とはいえ、ニューヨークにはさまざまな人種の人たちが暮らしているので、参加者の多様性は感じられます。

「DevRelCon NYC 2025」で
行われたセッション

ここからは、DevRelCon NYC 2025で行われたセッションをいくつか紹介していきます。まず、統括として言えるのは「AI関連セッションが多い」ということです。これには2つの面があると思われます。

  1. 開発者界隈でAIに対する注目が集まっている
  2. 企業が企業価値を高めるためにAI機能を提供している

特に、最近のスタートアップ企業では「AI」というキーワードの有無で企業価値が大きく変わります。そのため、何とかして自社サービスとAIを絡めようとする企業が増えているようです。

Dev Rel's Biggest Stage Yet
Angie Jones (Global VP, Developer Relations) @Block

初日の基調講演です。BlockはSquareが2021年に社名変更した企業です。Angie Jones氏はBlockのGlobal VPで、DevRelチームを率いています。

基調講演ではBlockのDevRelチームが直面した具体的な経験(長年手がけてきた製品の終了)と、新たなAIエージェント「Goose」プロジェクトへの迅速な移行について語っています。そして、DevRelが現代において直面する課題と新しい機会についても取り上げられていました。

Angie Jones氏が語っていたのは「DevRelチームは正直さと誠実さを重視した」ということです。自分たちがAIの専門家ではないと認めつつ、ともに解決しようという姿勢を示し、学ぶ過程をコミュニティを共有して信頼を得たとのことです。このアプローチにより他の開発者も自信を持って学べるようになり、質問を促すきっかけにもつながったと言います。

また、AIを自ら利用する「Build by Build」というアプローチを取ることで、コードベース理解やドキュメント作成、プロジェクト管理やコミュニティのフィードバック分析など、日々のタスクにAIを積極的に活用してユースケースを示していきました。そうしたトライ&エラーはライブストリームで公開し、失敗からの回復方法やAIが完全に機能しない場合のコード保護方法を共有することで、開発者に実践的な知識を提供していったそうです。

同氏いわく、DevRelの役割は「従来の開発者だけでなく、社内のあらゆる部署の人たちなどオーディエンスが拡大している」とのことです。DevRelチームは企業のAI導入における教師であったり、AIカルチャーを作る存在として求められているが、AIが台頭する中では本物と偽物を見極め、既存のスキル・技術をAI時代に適応させるための導きが求められていると締めくくりました。

DevRel as a Growth Engine: creating leverage while staying authentic
Anna Filippova (Developer Growth Marketing) @Snowflake

SnowflakeでDeveloper Growth Marketingを担当するAnna Filippova氏は「DevRelの価値を組織内にどう伝えるか」という課題に向き合う中で、ストーリーテリングの重要性を強調しました。単に数字で成果を示すのではなく、DevRel活動の背景にある意図や文脈を伝えることで、より深い理解と共感を得られると述べました。特に「雰囲気は成果の一部である」という言葉を用いて、定性的な要素もデータとして扱う姿勢が大切だと強調しました。

セッションでは、Growth MarketingやPLG(プロダクト主導の成長)、CLG(コミュニティ主導の成長)といった隣接領域の考え方を取り入れながら、DevRelが成長のドライバーとなる可能性について実例を交えて紹介していました。同氏氏はSnowflakeでの年数百回にのぼるイベント運営やコンテンツ設計の取り組みを紹介し、開発者が「ハマる瞬間(Aha Moment)」を感じる体験を設計することが、結果としてビジネスへの貢献につながると説明しました。

セッション中の1コマ

また、良いデータが取れない状況でも、まず人と話すことから始める重要性を挙げています。Slackでのひと言アンケートや日々の1on1の記録など小さな対話を丁寧に拾い上げ、Notionなどに蓄積していくことで貴重な人間起点のデータが積み上がります。Filippova氏は、こうした小さな情報を構造化することで、後から振り返って使えるデータに変えられると提案していました。

最後に、DevRelが単なる支援的な立場にとどまらず、ビジネスの主要指標とどのように結びつくかを意識することの重要性を語っています。例えば、MAU(月間アクティブユーザー数)やオンボーディング完了率などのKPIにDevRel活動がどのように貢献しているかを能動的に示すことで、社内での信頼を得やすくなります。同氏は「DevRelを雰囲気づくりで終わらせず、成長の加速させる存在として位置づけるべきだ」と締めくくりました。

Steering Established Developer Ecosystems to New Heights
Ricky Robinett (VP of Developer Relations & Community) @Cloudflare

本セッションでは、DevRelにおけるリーダーシップやストーリーテリングの重要性について紹介しました。TwilioやOrderなどの企業でもDevRelを経験してきたRicky氏は、マジック(手品)をたとえに、自身の原体験を交えながら「人に驚きと気づきを与える」DevRelの魅力を丁寧に伝えていました。

セッションで印象的だったのは「開発者1人の変化が多くの人に影響を与える」というエピソードの数々です。ハッカソンがきっかけで人生が変わった開発者の話、APIドキュメントを通じてすごいプロダクトを開発した話、さらには自身の娘がCursorでコーディングした動画が300万再生された話など、DevRelの価値をストーリーで体現していると言います。

また、開発者に寄り添ったデモも本セッションのキーワードの1つでした。例えば、Twilioではエンジニアではない人にその場でアプリ開発を体験してもらうKennyデモを行っており、多くの人に感動してもらっていたそうです。Cloudflareでも類似の取り組みを展開しており、コードの専門性よりも、その人にとって意味のある体験を提供できるかどうかという姿勢を重視しています。

同氏は、最後に自身の過去や家族の経験を踏まえて「人に希望や驚きを届けることが、自分にとってDevRel」だと語ります。ただ情報を伝えるのではなく、誰かの人生を少しでも動かすのが大事だと締めくくりました。

Beyond badges: How gamification can supercharge developer engagement
Lauren Lee (Head of Developer Relations) @Midnight

本セッションでは、開発者コミュニティにおけるゲーミフィケーションの新たな可能性について紹介しました。従来、ゲーミフィケーションはAPI学習やチュートリアルの一部として活用されてきましたが、それだけでは持続的な関与や貢献につながりにくい点が課題として挙げられていました。オンボーディングとしては役立っても、実世界の課題解決には結びついていないという問題があったと言います。

Lee氏は新しい形のゲーミフィケーションは単なる学習支援ではなく、信頼を構築し、コミュニティ全体を育てる仕組みになり得ると言います。Midnightでは開発者の活動を可視化して信頼や評価を積み重ねる設計を取り入れています。学習・貢献・リーダーシップといった各要素を分断せず、連続した開発者の成長過程として設計することで、それぞれの行動が次の段階につながる仕組みを構築しています。

それを実現しているのが「Midnight Quest」という仕組みです。参加者は教育プログラムの一環として実際にプロジェクトを提出し、その後もオープンソースへの貢献やイベント参加などを通じて活動履歴が蓄積されます。報酬や権限付与も自動化されており、手続きに煩わされることなく参加者の行動に応じたフィードバックを送れます。Midnightはブロックチェーン技術の企業であり、このMidnight Questもブロックチェーンを活用しています。

同氏は、最後に「ゲーミフィケーションを取り入れること自体が目的ではなく、各プログラム間のつながりや継続的な貢献の評価が重要だ」と語りました。ブロックチェーンなどの技術に依存しなくても、既存のツールやデータを活用することで同様の仕組みを構築できます。持続的な関与を促すには貢献の履歴を正しく記録し、開発者の成長を支える環境を整えることが鍵になるという考えが示されました。

Three Marketing Frameworks Every Advocate Should Know

本セッションでは、下記の2人が登壇者として登場しました。

  • Matthew Revell (Developer Relations Consultant) @Hoopy
  • Adam Duvander (Chief Content Strategist) @EveryDeveloper

開発者リレーションに関わるすべての人が知っておくべき3つのマーケティングフレームワークについて解説しています。DevRelという分野がプロダクトとマーケティング、エンジニアリングの交差するポイントにあるにも関わらず、未だに体系化された手法が確立されていないことを指摘しました。そこで参考になるのがマーケティングの考え方です。

マーケティングファネルを例に取りつつ、開発者が新しい技術の認知・評価・導入、そして成功へ至るまでの流れを「Developer Journey」として捉えることの重要性が語られました。マーケティングで言うカスタマージャーニーと同様に開発者の行動変容にも段階があり、それぞれに適したコンテンツや支援が必要とされます。「DevRelはこの段階間の移行を助けるために設計されるべきだ」という視点が強調されました。

本セッションの内容やスライドは「Developer Marketing frameworks for DevRelCon」で視聴できます

そのためには、技術的な背景や業界特有の制約、商習慣、アクションの違いを理解した上でペルソナ設計しなければなりません。単に職種や経験年数といった情報にとどまらず、どんな技術スタックを使っていて、どんな環境で働いているかを把握します。こうした対象理解があって初めて「開発者にとって本当に意味のあるコンテンツや支援が可能になる」と言います。

最後に、2人はメッセージングの重要性にも触れました。優れた開発者向けのメッセージとは、ただプロダクトの特徴を並べるだけでなく、開発者の抱える課題とプロダクトの提供する解決策との間にあるギャップを埋めるものだとしていますが、それには誰に何をどう伝えるのかを明確にし、開発者のコンテキストに合わせた言葉で話すことが欠かせません。「DevRelに関わる人こそマーケティングの手法を取り入れ、自らの活動に活かしていくべきだ」と締めくくられていました。

その他のセッション

DevRelCon NYC 2025では、他にも多くのセッションが行われました。例えば、カンファレンス参加者に心理ゲームを実行してもらい、回答によって異なるステッカーが得られるベンディングマシンの紹介や、情報認知の違いに関するセッション、シニアレベルのDevRel担当者が増えすぎたことによる新しい職務の創出など、さまざまなトピックが取り上げられていました。

全セッションの最後、締めくくりは何とマジックショー!

まとめ

今回のDevRelCon NYC 2025は、地球の反対側での開催ということもあり、日本やアジア圏からの参加者は少なかったように思います。しかし、DevRelCon自体はバンガロールなどアジア地域でも開催されており、2026年にはインドとは別の東アジアの国で開催が検討されています。

DevRelに関わる方々はもちろんのこと、開発者としてのキャリアにも役立つので、興味がある方はぜひ参加してみてください。

オープンソース・ソフトウェアを毎日紹介するブログMOONGIFT、およびスマートフォン/タブレット開発者およびデザイナー向けメディアMobile Touch運営。B2B向けECシステム開発、ネット専業広告代理店のシステム担当を経た後、独立。多数のWebサービスの企画、開発およびコンサルティングを行う。2013年より法人化。

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