KubeCon Japan 2025併催のKeycloakCon Japanを紹介

2025年9月11日(木)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
KubeCon Japan 2025に併せて開催された単独では初めてのKeycloakCon Japanを紹介する。

KubeCon+CloudNativeCon Japan 2025が2025年6月16日と17日の2日間、お台場で開催された。2日間で約1500名の参加者が集まり、開催日前にチケットが売り切れになったことから考えると「国内でKubeConに参加したい」と考えていたエンジニアやビジネスパーソンが多かったということだろう。

またその2日間の前後にはKeycloakConやFinOps X Dayなどの併催イベントも開催され、多くのトピックについて解説や質疑応答が行われた週となった。この稿では6月13日、つまりKubeCon Japanが開催された前週の金曜日午後に行われたKeycloakConについて紹介する。

翌週から始まるKubeCon Japanの会場となったヒルトン東京お台場の比較的小さな会議室で開催された半日のミニカンファレンスKeycloakConだが、用意されたキャパシティに比べると参加者はだいぶ少なめで、その点は残念だった。

約140席という用意されたキャパシティに比べて参加者は…

約140席という用意されたキャパシティに比べて参加者は…

この件についてKeycloakの関係者に話を訊いたところ、CNCFからは「無償にしないほうが良い」と伝えられていたということだ。しかし当初から無償とアナウンスしてしまった経緯があったため、無償にしてしまった、やはり少額でも有償にすべきだったというコメントが聞けた。実際、100名以上の参加申し込があったということだが、無償にしてしまったために欠席率が跳ね上がってしまったということになる。欠席率を低く抑えるためには少額でも有償にして「カネを払ったんだから元をとりたい」という意欲を参加者に想起させることが必要であろう。初めての単独で開催されたKeycloakのカンファレンスということで記念すべきイベントであったはずだが、スタートからつまずいてしまった感は否めない。

カンファレンスではキーノートとしてRed HatのKeycloakメインテナーが解説とデモ、日立のメインテナーである乗松氏が解説するMCPを使ったAIエージェントとの連携の解説、国内のユースケースとしてサイバーエージェント、クラウドエース、Gifteeなどのセッション、KeycloakのUIをカスタマイズするKeycloakifyのセッションなどが行われた。またこのカンファレンスのスポンサーでもあるNRIからの挨拶なども行われた。

ここではキーノートとして行われたRed HatのエンジニアMarek Posolda氏のセッションと、その後に行われた乗松隆志氏のセッションを簡単に紹介する。

●Red Hat Posolda氏のセッション:Keycloak Introduction and Demo

Red HatのPosolda氏のセッションはKeycloakのイントロダクションとこれからの展望、そして実際にデモを行ってその動きを見せるというものだった。

Keycloakのイントロダクションとデモというセッション

Keycloakのイントロダクションとデモというセッション

しかしこのセッションを聞いていた関係者を含む参加者にとってみれば、すでに理解している内容であり、このセッションで初めてKeycloakに接したというエンジニアは少なかっただろう。

自己紹介に続いてセッションの内容を紹介するPosolda氏

自己紹介に続いてセッションの内容を紹介するPosolda氏

主な機能について解説した後にモノリシックなアプリケーション、Webベースのアプリケーション(特にSPA)について構成例を解説した。そこからKeycloakにおけるアイデンティティ管理と言う部分の解説を実施。この内容が後半のデモにも繋がる内容となっているが、やや説明が淡泊で要点が何か? ということが伝わりにくかった。

アイデンティティ管理がKeycloakのコアの機能

アイデンティティ管理がKeycloakのコアの機能

そして認証の方法についてもスライドを使って解説した。

2要素認証、パスキー、サードパーティによる認証のサポートなどが認証方法として解説された

2要素認証、パスキー、サードパーティによる認証のサポートなどが認証方法として解説された

45分のセッションの中の後半10分は、デモとしてノートPC上でローカルのWebアプリケーションを実行し、ローカルのポートからアクセスして、ユーザーの認証に必要な属性を追加するなどを行った。

その後に行われたのが日立の乗松氏のセッションだ。

日立のOSPO所属のKeycloakのメインテナーである乗松隆志氏

日立のOSPO所属のKeycloakのメインテナーである乗松隆志氏

乗松氏は今や多くのカンファレンスで耳にするキーワード、「Model Context Protocol(MCP)」をKeycloakから使う方法を解説するセッションを行った。

MCPはAnthropicが提唱し、オープンソースとして公開したLLMなどのモデルとデータベースや外部のAPIを呼ぶためのプロトコルだ。MCPがない状態ではデータベースを呼ぶためにはSQL、WebであればRestを使うなど個別にそれぞれのプロトコルを呼び出す必要があったが、MCPを使うことでさまざまなサービスとLLMを繋ぐことが可能になる。

MCPを使うことで共通のインターフェースで外部サービスを使うことが可能に

MCPを使うことで共通のインターフェースで外部サービスを使うことが可能に

乗松氏はMCPについても簡単に紹介を行った。

MCPの概要の紹介

MCPの概要の紹介

そしてMCPを開発するためのSDKの状況、MCPのコンポーネントであるクライアントとサーバーの構成などについても解説を行った。

MCPがユーザーとアプリケーションの間のどこに存在するのかを解説

MCPがユーザーとアプリケーションの間のどこに存在するのかを解説

またKeycloakの視点では認証がどのようにAIアプリケーションと外部サービスの間で行われるのかを説明。特に外部サービスにアクセスするためのトークンがどのようなフローで処理されるのかについて、順を追って解説した。

MCPクライアントとMCPサーバーの間でアクセスがどのように成立するのかを解説

MCPクライアントとMCPサーバーの間でアクセスがどのように成立するのかを解説

その上で認証の標準であるOAuth2.0の視点からMCPの認証フローのどうなるのか? を説明。これについては最初の仕様と提案されている最新のドラフト仕様から、その変化を解説している。これはかなりKeycloak及びOAuth2.0に詳しいエンジニア向けの解説と言えるだろう。

最初の仕様ではMCPサーバーに認証と認可が抱合されている

最初の仕様ではMCPサーバーに認証と認可が抱合されている

2025年6月の仕様では認証(AuthN)と認可(AuthZ)はMCPサーバーからは切り出されている

2025年6月の仕様では認証(AuthN)と認可(AuthZ)はMCPサーバーからは切り出されている

AuthN(認証)とAuthZ(認可)の部分がKeycloakに置き換わる?

AuthN(認証)とAuthZ(認可)の部分がKeycloakに置き換わる?

この後で解説されるPoCに準じた構成を説明

この後で解説されるPoCに準じた構成を説明

そして日立がProof of Concept(PoC、実証実験)として開発しているシステムの構成例を示して、より詳細に実際に実装された認証システムを解説した。

日立が開発するPoCのシステム例。リバースプロキシが追加されている

日立が開発するPoCのシステム例。リバースプロキシが追加されている

そして、なぜMCPの利用にKeycloakが適しているのか? を説明。ここでは標準に準拠していることやKeycloakが金融業界の標準に準拠していることで安全な認証が可能になることなどを挙げた。

どうしてKeycloakをMCPの認証に使うべきか? を安全性の観点から説明

どうしてKeycloakをMCPの認証に使うべきか? を安全性の観点から説明

さらに、Keycloakが認証のためのオープンソースとして健全に運営されている点についても解説を行った。

認証のためのオープンソースとしても信頼できるソフトウェアであることを説明

認証のためのオープンソースとしても信頼できるソフトウェアであることを説明

その後は日立のオープンソースの取り組みの紹介として、OSPO(Open Source Program Office)の創設などを説明した。

日立のオープンソース関連の取り組みを紹介

日立のオープンソース関連の取り組みを紹介

セッションのサマリー。すべてのポイントで日立が主語になっている

セッションのサマリー。すべてのポイントで日立が主語になっている

最後のサマリーの部分では、箇条書きのすべての項目において日立が主語になっている点は、いかにも日本企業の社員としての矜持とも言えるスタイルだと感じた。オープンソースのコミュニティに参加するエンジニア目線ではなく、あくまでも日立社員が企業の方針として参加しているという部分があからさまになっているのは企業の方針であるとは言え、本音が出過ぎであるように感じた。オープンソースのコミュニティは、建前上は世界中のエンジニアに向けてオープンであるべきだろうが、ここまで日立がコミットしていることを前面に出すことで他のエンジニアが身構えてしまうことにならないだろうか。

乗松氏へのインタビューなどで、日立が戦略的にオープンソースにコミットしていることは理解できるし、それが日立のためになることの最善の方法であることは確かだが、他方、オープンなコミュニティという建前は守る姿勢も見せて欲しいと思う内容となった。乗松氏のインタビューは以下から参照して欲しい。

●参考:Keycloakのメンテナーに訊く、日本の大企業でOSSへのコミットを仕事にするには?

乗松氏のセッションは以下から参照可能だ。

●日立製作所 乗松氏のセッション:AI Agents with Keycloak in MCP

またKeycloakのユーザーインターフェースをカスタマイズするためのオープンソースKeycloakifyに関するセッションも興味深いものだったと言える。フランス在住のInseeという公的機関に属するJoseph Garrone氏のセッションでは、WebサイトのデザインとKeycloak認証のページデザインを合わせるためのツールとして公開されているKeycloakifyの解説とデモを行った。

●Keycloakifyのセッション:A Practical Toolkit for Customizing Keycloak Interfaces

●Keycloakify公式ページ:https://www.keycloakify.dev/

Keycloakifyは例えば、Webサイトからユーザーに認証を促す際に表示されるダイアログのデザインをコーポレートデザインに統一したいというニーズに合致するツールで、Keycloakのエコシステムが充実してきていることを表していると言えるだろう。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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第1回

KubeCon Japan 2025併催のKeycloakCon Japanを紹介

2025/9/11
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