Zabbixの年次カンファレンスがラトビアのリガで開催。初日のキーノートを紹介

モニタリングツールとしてのZabbixは進化の速いIT業界ではユニークと言えるだろう。Alexei Vladishev氏が独りで立ち上げたオープンソースのソフトウェアは約20年前に会社として設立され、ベンチャーキャピタルの資金が入ることもなく、株式公開というステージに上がることもなく運営されている。他のオブザーバビリティベンダーが「生成AIを使った根本原因の解明」などの最先端のテクノロジーの応用に力を注ぐ中、あくまでもサーバーとエージェントをインフラストラクチャーに展開することで、オンプレミスでもクラウドでも同様の監視オペレーションを可能にするのが、Zabbixの根幹だ。
またソフトウェアだけではなくZabbixを教えるトレーナーを養成するトレーニングプログラムは対面でのみ実行され、まるで師匠が弟子を育てる世襲制度のようなコミュニティが形成されている。このやり方によって、学校の卒業生が集うコミュニティと似た組織が形成されていると言える。
そのZabbixが例年開催しているZabbix Summitが、今年も本社のあるラトビアの首都リガで開催された。例年と同じホテルを使い、規模も約500名というところは変わらない。2025年10月9日と10日に開催された今年のカンファレンスでは、1トラックで行われていたセッションに加えて初日はDev Track、2日目はCommunity Trackという通常のセッションよりも長めの時間を設定したより深い内容のセッションが行われた。特に2日目は参加者がPCを持ち込んで操作を行うワークショップも並列で実行され、実際にZabbixやパートナーのツールを操作することで理解を深める内容になっており、「より深く最新のZabbixを知る」ことが可能になっていた。またカンファレンスと合わせて実施されるトレーニングや認定試験なども用意され、Zabbixを知るだけではなくZabbixを使うための知識と経験を深めるためのイベントとなっている。2025年は8月に上海で中国のユーザー、エンジニア向けのカンファレンスも開催された。Zabbixは積極的に世界各地でエンジニアやユーザーにリーチ・アウトしようとしているのがわかる。
Zabbix関連のイベントについては以下の公式イベントページを参照されたい。
●参考:https://www.zabbix.com/events
今年はパートナーをより支援するためにパートナー限定のカンファレンスも用意され、本カンファレンスの中でもパートナーが開発したモニタリングソリューションをユーザーとパートナーのエンジニアが一緒に発表するセッションも多く存在した。
本稿では初日のキーノートの内容を紹介する。
沿革、そして引っ越しの報告
キーノートに登壇したのはZabbixのCEOであるAlexei Vladishev氏だ。例年、サミット初日の最初のセッションはCEOが登壇して主にソフトウェアに関して解説を行うのが定例だったが、今年はプロダクトの新機能を紹介する内容に加えて、パートナーシップやトレーニングなどについても解説する包括的な内容となった。
Vladishev氏はまず、企業としてのZabbixの沿革について説明。2005年に創業した後、日本、アメリカ、ブラジル、メキシコと拠点を展開しており、2025年は新社屋への引っ越し、そして買収によってフランスにも拠点を作ることになったと説明。
これはフランスのパートナー企業IZI-ITを買収したことを指している。去年のサミットでもパートナーとしてIZI-ITは存在感を出していたが、フランスの拠点として活動することでローカライゼーション、顧客サポートの充実が期待される。
オンライン教育プログラムZabbix Academy
また冒頭で示したように、Zabbixはプロダクトのトレーニングを行うトレーナーになるためには対面でのトレーニングを受講して先輩となるエキスパートから直接、指導を受けることでトレーナーになるという仕組みを採用している。この仕組みはそのままに、より多くのエンジニアにZabbixを知ってもらうためにオンラインの教育プログラムであるZabbix Academyを発表した。既存顧客には無償の利用枠が用意されるという。
Zabbix Cloudのアップデート
またクラウドベースのマネージドサービスであるZabbix Cloudを2024年に発表したが、そのアップデートを紹介。
単にマネージドサービスとしてクラウドのインスタンスをモニタリングできるだけではなく、オンプレミスやエッジでの実装も含めて包括的にモニタリングが実装できるというのがZabbixのメッセージだ。サーバーやエージェントのアップデートを自動化できるのがクラウド版Zabbixの評価ポイントであるというメッセージは、2024年から変っていない。
Zabbixは「Your Business Works.」というキャッチコピーをこのカンファレンスから使い始めたが、それはクラウド、エッジ、オンプレミス、そしてパートナーのソリューションを組み合わせることで、どんなビジネスにも適応できるということをさしている。
Zabbixがまだできないこと
どんなビジネスでも実装形態でもモニタリングが可能であるという意味がこの「Your Business Works」には込められているが、ここからがいかにもZabbixらしいところを見せた。それは「そうは言ってもまだできていない部分もある」ということを丁寧に解説するところだ。
これがアメリカのITベンダーであれば、「将来計画」と銘打ってよりポジティブに見せるところだが、Zabbixは正直に「Limitation」と解説してしまう。その正直さこそが顧客とパートナーがZabbixを愛する理由のひとつだろう。
Application Performance Monitoring(APM)はアプリケーションに注目して監視を行う機能で、クラウドベースのオブザーバビリティベンダーが盛んに宣伝を行っているのでご存知の方も多いだろう。Complex Event Processing(CEP)は複数のイベントを相関分析して原因解明を行う機能などを指す。
この機能はバージョン8.0に実装を予定しているとしてその内容を解説した。このデータが処理できるようになると単にエラーが発生したという事象から「この状態が変化したことによって最終的にこのエラーが発生した」という因果関係を特定可能になる。
ここではOpenTelemetryのデータやNetFlow、KafkaのデータなどをJSONの形で処理することでビジュアライゼーションが可能になり、最終的に原因を突き止めることが可能になると説明。
多くの顧客からリクエストされていたOpenTelemetryへの対応も解説を行った。
利用できるストレージの拡張
また大量のモニタリングデータのストレージに対してはこれまでMySQL、PostgreSQLなどに加えてClickHouseやElasticのデータストレージを利用することを想定していると説明。7月に北京で開催されたThe Apache Software FoundationのカンファレンスCommunity Over Code Asia 2025では、ClickHouseの対抗として紹介されたApache DorisというBaidu由来のリアルタイムデータウェアハウスソフトウェアが存在する。常にオープンソースであることを標榜するZabbixであれば、ぜひ、検討対象として挙げて欲しいところだ。
●参考:Introduction to Apache Doris
クラウドネイティブなシステムに対応したスケーラビリティを紹介。UIからサーバー、プロキシー、APIそしてデータベースが構成要素としてシンプルに解説されている。
そしてWebUIの改善からデータビューをカスタマイズできる機能を紹介した際、期せずして会場の参加者から拍手喝采が起きたことでVladishev氏が思わず笑ってしまうというシーンもあった。参加者がVladishev氏による次バージョンの解説を真剣に聴き入っていることがわかった瞬間である。
モバイルアプリ
次に紹介したのはZabbixのモバイルアプリケーションだ。
これは管理者向けというよりもモニタリングをエンドユーザーに解放するためのものとして説明され、プッシュノーティフィケーションや他のZabbixユーザーとのコラボレーション機能も含まれると解説した。
拡張機能を取り込むマーケットプレイス
またユーザーが求める機能を満足させるためにはパートナーによる機能の拡張が必要だとして、それらの拡張機能をブラウズして取り込むためのマーケットプレイス機能も紹介。
この機能は2026年リリースを予定しているという。
最後にこのキーノートで紹介したトピックをまとめて紹介。Zabbix Academy、IZI-IT買収によってZabbix Franceの創設、2026年にリリースされる8.0LTSの各種機能、モバイルアプリケーション、そしてZabbixのマーケットプレイスを紹介してセッションを終えた。
最後に、今年のカンファレンスではスマートフォンでQRコードを読み取り、その場で質問を送る機能がすべてのセッションで実装されており、司会者であるArturs Lontons氏が会場からの質問をプレゼンターに対して投げかけて回答を得る仕組みが徹底されていたことをメモしておきたい。この方法はGrafanaCONでも採用されており、セッション後にプレゼンターを追い掛けて質問を行うという原始的な方法よりも遥かにスマートで生産性が高く、CNCFなどもぜひ参考にして欲しい機能である。
約500名が参加したカンファレンスはマルチトラック構成として拡大されたが、メインの会場に集まる参加者は高い集中力でセッションに聞き入っており、参加者の真剣度が伺える内容となった。
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