Grafana Labsが日本進出 ~日本におけるオブザーバビリティの盛り上がりと今後の展望を語る

2025年11月12日、オブザーバビリティプラットフォームを提供するGrafana Labsが、日本法人の設立を発表した。本記事では、記者発表会のレポートを通して、同社の日本進出の背景とともに、日本におけるオブザーバビリティの盛り上がりと、今後の同社のエコシステムの動向について紹介する。
Grafana Labsとはどんな会社?
Grafana Labsは2014年に創業され、オープンソースプロジェクト「Grafana」を中心に成長してきた企業である。ガートナーのMagic Quadrantにおいてオブザーバビリティ分野のリーダー企業としても位置付けられている。
Grafana Labs共同創業者 兼 CEO ラジ・ダット氏は、同社の強みは「オープンソースコミュニティからの支持にある」と語る。コミュニティからのフィードバックや貢献を受け取ることで、プロダクトを驚くほど速いペースで改善できる。その結果、コミュニティからの信頼と認知がさらに広がる。このような循環こそが、同社に大きな競合優位性をもたらしているというのだ。
「世界で最も人気のあるオープンソースソフトウェアを作り、 その巨大なエコシステムのほんの一部を商業化すること。それが創業当初からの我々の戦略だ」(ダット氏)
見込み顧客はコミュニティを通して既にGrafanaの価値を理解し、信頼している状態からスタートする。その結果、ユーザーの大半が無料版を使うとしても、より多くの機能やサポートが必要になれば、自然と有料プランへとステップアップしてくれるという。その結果として現在ではJP MorganやNVIDIAをはじめとする7,000社以上の有料顧客を抱え、年間4億ドルの収益を上げ、世界40か国以上に1,500人以上の社員を擁する企業にまで成長した。
現在、同社はSaaSにも力を入れている。主力製品「Grafana Cloud」はメトリクス、ログ、トレース、ダッシュボードを1か所に統合し、アプリケーション・インフラ・サービス全体を包括的に監視できるオブザーバビリティプラットフォームで、「Grafana」「Loki」「Mimir」など同社が開発するOSSを基盤に構築されたフルマネージドのサービスだ。
主な特徴として挙げられるのが「Datadog」「Elasticsearch」など様々なツールやプラットフォームと接続できるため、サイロ化しがちなデータを統合し、可視化と分析ができること。膨大なログやメトリクスから本当に有用な情報のみを抽出するAdaptive Telemetryにより、オブザーバビリティにかかるコストを大幅に削減できること。そしてAIを統合した「Grafana Assistant」により、現場のエンジニアからリーダー層、経営層まで、あらゆる層にオブザーバビリティの恩恵を提供できることだ。
日本におけるオブザーバビリティ市場の急拡大
日本におけるオブザーバビリティ市場は急速に拡大している。グローバル市場は2024年の1.4兆円から2028年には2.1兆円に成長すると予測されており、日本市場も2024年の946億円から2028年には1,138億円への成長が見込まれている。この成長の背景は、日本企業によるクラウドネイティブアーキテクチャ、生成AI、デジタルファースト戦略の採用が進み、システムの複雑化が加速していることが要因だ。そこで運用の複雑性に対処するために、オブザーバビリティへの需要が高まっているのだという。
実際、日本法人設立以前からGrafanaのコミュニティは日本で大きく成長してきた。JAXAはSLIM月面探査機のリアルタイム監視にGrafanaを採用し、またデンソーは世界中の工場からのIoTデータを可視化するためにGrafanaを導入している。サイバーエージェントはGrafanaをAbemaTVのインフラ運用監視に利用しており、番組配信で問題があれば即座に発見できる体制を構築した。さらに、2025年初めに開催されたカンファレンス「ObservabilityCON on the Road Tokyo」は参加チケットが完売するなど、既に日本市場での力強い勢いを確立している。
グラファナラボ日本合同会社 カントリーマネージャーのアンディ・シュワベッカー氏は「我々は日本での展開を決して軽く考えていない。国内チームの編成、パートナーとの連携の強化などを通して、日本の顧客へのGrafana導入を支援する」と語る。具体的には、AWS東京リージョンでのGrafana Cloudの提供開始、セールス・マーケティング・アドボケイトなどから成る国内専門チームの編成、そして2026年初頭には東京に同社初のGrafana Executive Briefing Center開設を予定しているという。
また、同社副社長執行役員 加賀美 正篤氏は、同社自身を「オブザーバビリティ新時代の黒船」と位置付け、ベンダー中立なオープンプラットフォーム、利便性とコスト削減の両立、ローカリゼーションの加速の3本柱で日本市場への展開を加速すると宣言する。
発表会では日本のユーザーも登壇し、ユーザー目線でのGrafanaの魅力を伝えた。株式会社グリーは2015年からGrafanaをモニタリング基盤として採用し、グループ全体の標準スタックとして活用している。Grafanaのメリットとして、ダッシュボードの民主化、周辺のエコシステムと連携しやすいこと、利用者自身の課題を標準化された手法で解くことができることなどを挙げた。
株式会社ソラコムは、IoTデバイス情報を集約するダッシュボードを作成するサービス「SORACOM Lagoon」にGrafanaを組み込み、800万回線のIoTユーザーに提供している。製造業、ヘルスケア、畜産、建築など、様々な「現場とクラウドを繋げる」用途で活用されているという。パートナー企業からは2021年に国内初の代理店となったサイオステクノロジーが登壇し、グラファナラボ日本との「共創」により国内の市場開拓を強化する決意を語った。
「日本での事業立ち上げを成功させるために、顧客、パートナー、メディアと力を合わせて日本市場でのサポート体制を確立し、ビジネスを成長させていきたい」(シュワベッカー氏)
Grafana Labsが「CloudNative Days Winter 2025」(11/18~19開催)に登壇します! Grafanaの根幹にある「オブザーバビリティの哲学」をぜひチェックしましょう!
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