連載 [第57回] :
  月刊Linux Foundationウォッチ

LFが日本におけるIT人材の課題と採用動向を調査した「2025年 日本の技術系人材の現状レポート」を公開

2025年6月30日(月)
吉田 行男

こんにちは、吉田です。今回は、Linux Foundation が公開した「2025年日本の技術系人材の現状レポート」について紹介します。

【参照】2025年 日本の技術系人材の現状レポート
https://www.linuxfoundation.jp/publications/2025/06/tech-talent-japan-2025-jp/

高まるIT人材の需要

グローバルで、コンピューティングインフラのモダナイゼーションが急速に進んでいます。日本でもパブリッククラウドの採用が大幅に増加する見込みであり、すべてのコンピューティング環境の中で最も高い成長率となっています。これらのクラウドインフラを活用することで高度なAIの実装、機械学習アプリケーション、高度なデータ分析など現代のビジネス運営に不可欠な機能を享受できます。

しかしながら、北米やヨーロッパと比較すると、下図のように遅れをとっていると言わざるを得ません。この対応の遅れが、グローバル市場での競争力に長期的な影響を及ぼす可能性があります。

また、下表の主要戦略分野への人員配置を見ると、上記の出遅れの原因の一部に人員不足という問題があるのではないかと思います。

エリア 日本 APAC
(日本を除く)
北米/欧州
クラウド、コンテナ、仮想化 52% 58% 73%
サイバーセキュリティ 51% 43% 57%
システム管理 43% 44% 55%
ネットワーク、エッジ 30% 31% 41%
システムエンジニアリング 28% 37% 45%
AI、ML、データ、アナリティクス 27% 44% 54%
プライバシー、セキュリティ 27% 30% 32%
DevSecOps、CI/CD、サイトの信頼性 22% 46% 75%
Web&アプリケーション開発 22% 43% 60%
プラットフォームエンジニアリング 18% 28% 53%

AIの導入が進むにつれて「AIの導入がどのように雇用に影響を及ぼす」かということも大きな課題になってきます。一般的にはAIを導入することで労働需要が減少し、IT人材不足が緩和されるという見方が広まっていますが、現実にはどうでしょう。

本レポートでは、企業はAIの導入に対応して実際にIT労働力が拡大しています。下図に示されるように、全体的な雇用効果は2026年までに2024年の17%から2026年の13%の幅でプラスを維持することが予測され、技術系人材に対する雇用市場の競争が激化しています。

AIがITのモダナイゼーションを推し進める中、世界中の組織においてAIがあらゆるコア業務で多くの恩恵をもたらすことが期待されているというデータが得られました。下図に見られるようにITインフラのモニタリングと最適化が最優先課題であり、日本(46%)およびアジア太平洋地域(51%)では、AIによる大きな効果が期待されています。前述のように熟練労働力の不足に対応するため、アジア太平洋地域ではインフラの最適化に重点が置かれていると考えられます。

これとは対照的に、北米とヨーロッパでは重点項目が異なり、52%がAIによるソフトウェア開発に大きく期待しています。データ分析やレポーティングは全地域で一貫して優先度が高く、北米/ヨーロッパとアジア太平洋地域がともに50%、日本が45%となっています。この項目がどの地域でも優先度が高いのは、データをアクションにつながる分析を行うことで、意思決定プロセスを改善するというAIの活用方法が広く認知されているからであると考えられます。

熟練専門家の不足

日本では、熟練労働力の不足がモダナイゼーションに対する大きな壁となっています(下図の1位)。この人材不足は、他のアジア太平洋地域(4位)や北米/ヨーロッパ(3位)の同じ項目を大きく上回り、日本特有のモダナイゼーションの障壁となっています。この結果は、日本では技術的、財政的、文化的な変革の障壁となるような市場を支配する他のモダナイゼーションの課題より、むしろ人的資本の開発が重視されている可能性があることを示唆しています。

重要戦略となるアップスキリング

では、人材戦略は、どのように考えられているのでしょうか。

次図上に見られるように「アップスキリングが人材開発戦略の最優先事項と位置づけられている」という傾向が明らかになりました。さらに、次図下に示すように94%の組織が人材獲得方法としてアップスキリングを重要視しており、57%が非常に重要、または極めて重要と回答しています。

このように、アップスキリングが選択される主な理由として、新入社員の採用や育成に比べ、大幅に時間を節約できることにあります。この差は特に日本では顕著で、従来の採用・育成プロセスでは約12.7ヶ月を要するのに対し、アップスキリングではわずか5.7ヶ月で、その差は124%に達します。規模は小さいものの他の地域でも同様の傾向が見られ、アジア太平洋地域の他の地域では72%、北米とヨーロッパでは46%の差があり、一貫してアップスキリングのスピードがかなり速いことが分かります。

まとめ

本レポートの結論としては、特にクラウドコンピューティングやAIといった分野で日本の技術系人材が著しく不足している点を指摘しています。AIは全体としてプラスの雇用効果が期待される一方で、職務の再形成や初級技術職の減少を招いています。

また、技術的スキルの需要を満たし定着率を向上させるには、新入社員の採用という長くコストのかかるプロセスよりも、既存の人材のアップスキリングを図るほうが、組織にとって望ましくかつ迅速な戦略であることが示されています。

これらを参考に、各社の人材戦略を再考されてみてはいかがでしょうか。

2000年頃からメーカー系SIerにて、Linux/OSSのビジネス推進、技術検証を実施、OSS全般の活用を目指したビジネスの立ち上げに従事。また、社内のみならず、講演執筆活動を社外でも積極的にOSSの普及活動を実施してきた。2019年より独立し、オープンソースの活用支援やコンプライアンス管理の社内フローの構築支援を実施している。

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