KubeCon Europe 2025、ベルリンから参加したGardenのCEOにインタビュー。生成AIによる新しいビジネスチャンスとは?

2025年7月4日(金)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
KubeCon Europe 2025にて、ベルリンから参加したGardenのCEOにインタビュー。生成AIによる新しいビジネスチャンスとは?

KubeConはオープンソースソフトウェアのエリアでは最大のカンファレンスであり、ベンダーにとっては見込顧客を獲得、もしくはエンジニアをリクルートするための場所でもある。ベンダーはショーケースと呼ばれる展示ブースに出展することで露出を増やし、認知度を高めることでその目的を達成しようとする。

KubeConはまたエンジニア同士がソフトウェアを通じて出会う場所でもある。それまでGitHubのイシューやプルリクエストのコメントなどのオンラインでしか接点がなかったエンジニア同士が対面で出会い、理解を深めると言う場面はカンファレンスの現場で何度も見かけている。とはいえメディアがスポンサーやスピーカー以外のエンジニアと出会う機会はそれほど多くない。そこで今回はスポンサーでもスピーカーでもないエンジニアにインタビューを行ってみたという次第だ。

もともとの縁はTGS(Tokyo Game Show)にメディアとして参加した際に、C++のコンパイル時間を数倍から数十倍高速化するというソリューションを掲げて地味なブースで展示していたIncredibuildというイスラエルのベンダーと知り合ったことだ。Incredibuildの紹介は別途行いたいと思っているが、ロンドンで開催されるKubeConにIncredibuildのエンジニアは参加しますか? という問いかけに対してインタビューを行うことを合意してくれた。今回、インタビューに応じてくれたのはIncredibuildが2024年11月に買収したGardenというCIパイプラインを高速化するオープンソースソフトウェアの開発者でCEOのJon Edvald氏だ。Edvald氏はアイスランド出身で、現在はベルリンに在住しているエンジニアでもある。

インタビューに応じてくれたJon Edvald氏

インタビューに応じてくれたJon Edvald氏

自己紹介をお願いします。

Edvald:Gardenというオープンソースの開発をやっています。Gardenは企業名でもありCIパイプラインを高速化するオープンソースソフトウェアの名前でもありますが、2024年11月にイスラエルのIncredibuildという会社に買収されて、今は一つの部門として仕事をしています。コンピュータとの出会いは小学生ぐらいの時に父親がCommodore64を買ってきたことから始まりますね。そこからコンピュータオタクとして今までつながっていると思います。

前はビデオゲームの会社で自然言語処理のアプリケーション開発などをやっていました。今の仕事とは異なる分野の仕事ですね。Gardenの開発を始めたのは、私がベルリンでデベロッパーとして働いていた時にビルドが遅いことに不満があったというのがきっかけです。実はこれはIncredibuildが創業したことと同じなんです。彼らもC++のコンパイルが遅いことで毎回、ビルドが始まるとお茶を飲みに行くという生活が耐えられなかったことから始まっています。当時、同じアイスランド出身のエンジニア、Eythor MagnussonはGardenのCTOですが、彼と知り合ったこともあってGardenを開発するということになりました。その当時、ベルリンでアイスランド出身のエンジニアが働いていることは知っていましたが、そこで意気投合したということです。

Gardenの概要を教えてください。

Edvald:GardenはKubernetesで動くサービスを開発する際のCIパイプラインを高速化するツールです。ソフトウェアがビルドされる時に使われるさまざまなライブラリーなどの依存関係をグラフとして定義して、不要なビルドを減らすこととキャッシュを使うことで高速化します。Gardenのユーザーがビルドしている最大の規模のシステムは約2000のコンポーネントが連携して動いているというもので、その依存関係をGardenがグラフデータとして保持することでビルドの高速化を実現できています。

2000のソフトウェアが依存関係にあるというのはかなり大n規模なシステムですが、それを単純にビルドすると長い時間とリソースが必要になるのはわかります。

よく似たツールとしてDaggerがあるが、DaggerがCIをコンテナ化してクラウドではなくデベロッパーの使うPCで実行する発想であるのに対して、Gardenはソフトウェア構成の依存関係をグラフとして表現することで高速化を実現しているようだ。Daggerについては以下を参照されたい。

●参考:KubeCon North America 2024から、ローカルPC上でCIを実行することでクラウドコストを激減させるDaggerのセッションを紹介

Gardenはオープンソースソフトウェアとして公開されていますが、ビジネス的にはどうなっているんですか?

Edvald:Gardenはソフトウェア開発のためのツールですが、ソフトウェアをビルドする際にクラウドサービスを使います。その際にビルドに使う時間とユーザー数を単位として月額課金をすることで収益としています。Garden自体はオープンコアのモデルとなっていますので、基本機能はオープンソース、付加価値の部分がエンタープライズ版ということになりますね。

GardenがIncredibuildに買収されたことの意味は?

Edvald:IncredibuildはC++のコンパイルを分散並列化することで高速化するツールですが、それを必要とするのはゲーム開発を行っている企業が多かったことで多数のゲームデベロッパーが採用するようになりました。一方GardenはC++だけではなくマイクロサービスを開発する際のCIパイプラインを高速化するツールですので、お互いが補完関係にあると言えます。

ゲームデベロッパーよりもエンタープライズ向けということですか?

Edvald:そうですね。ゲームもクラウドネイティブなシステムに向かう方向にあるので、我々としてはプラスの方向に行っていると思います。最近の生成AIが流行していることもGardenにとってはプラスになると思います。なぜなら、生成AIを使ってソースコードを素早く完成させることができるということは、つまりこれまで以上にビルドの回数が増えるということに繋がるからです。生成AIを使ってコードを書いて、それをビルドしてテストするという回数が増えれば増えるほど、Gardenの効果がわかってもらえると思います。

Incredibuildはコンパイルの分散並列化によって高速化、Gardenは依存関係をグラフ化して不要なビルドを減らし、キャッシュの併用で高速化ということでレイヤーは異なりますが、ソフトウェア開発を高速化することには変わらないということですね。

Edvald:そうです。

Gardenはオープンソースがコアになっているということはユーザー自身がGardenをビルドして自社のサーバーでも使えるということですか?

Edvald:コアの部分はオープンソースなのでローカルのPCでもサーバーでも実行できます。クラウドサービスになっていることでそれ以上の機能、オブザーバービリティやテクニカルサポートなどが追加されます。実際にはクラウドサービスでも試用期間を限定しない無償のプランがありますので、ユーザー数やビルドの時間に制限はありますが、試用することは可能です。

Gardenにとってのチャレンジはなんですか?

Edvald:ひとつにはIncredibuildと一緒になったことでお互いが相乗効果を産むようになることですね。私は過去にも買収を経験していますので、その時の失敗を繰り返さないこと、失敗からは学ぶようにしたいと思います。クラウドネイティブなシステムが増えている現状は、IncredibuildにもGardenにも成長の大きなチャンスだと思いますので、機能を追加するだけではなくビジネスとして成長することを目指しています。

クラウドネイティブなシステムにおいて多くのコンポーネントが依存関係にあることで単純にビルドとテストを行ってしまうと、時間と場合によってはコストが指数的に増えてしまうというのはよく知られた問題であろう。DaggerはローカルPCを使う発想、Gardenはグラフデータによってビルドされるソフトウェアの依存関係を理解して、不要なビルドとテストを減らすことで高速化を行っていると言える。日本では主にゲームデベロッパーに知られているIncredibuildとGardenだが、これからはエンタープライズにも知られるべき存在だろう。

●Garden公式ページ:https://garden.io/

●Incredibuild公式ページ:https://www.incredibuild.com/ja/

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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