連載 [第2回] :
  4分類から見るPMOの全体像

仕事しやすい環境を整える立役者!「プロジェクト内PMO」〜ベンダー企業編〜

2025年9月12日(金)
甲州 潤 (こうしゅう じゅん)
第2回の今回は、前回で紹介した4種類あるPMOのうち「プロジェクト内PMO(ベンダー企業所属)」について深掘りしていきます。

はじめに

特定のプロジェクトに配置され、PMのサポートをはじめプロジェクト全体の管理や推進まで担うのが「プロジェクト内PMO」です。これまでの連載(基礎編知識編事例・実践編)でも取り上げてきた、まさに「THE PMO」とも言えるポジションです。

ただし、同じプロジェクト内PMOでも、ベンダー企業に属するか、事業会社に属するかでその役割や動き方は異なる、というのが私の考えです。

そこで今回と次回にわたり、両者のプロジェクト内PMOにクローズアップし、それぞれ解説していこうと思います。今回は、ベンダー企業に属するプロジェクト内PMOについて紐解いていきましょう。

【出典】甲州潤 著『DX時代の最強PMOになる方法

ベンダー企業に属する
プロジェクト内PMOの役割

ベンダー企業におけるプロジェクト内PMOは、すでにお馴染みの存在ではないかと思います。ベンダーが請け負うシステム開発などのプロジェクトは、納期内に確実に成果を出すことがマストだからです。この目標達成には進捗やリソース管理、業務の標準化、各チーム、取引先などとの連携といったマネジメントが必要不可欠です。

多くのプロジェクトで立ち上がりとともに体制図が作られ、誰がPMOを担うのか明確に示されます。あるいは「PMO」という名称でなくとも「PM補佐」「事務局」などとして会議のセッティング、議事録の作成、ツールの権限設定など、事務的な業務を専門的に行う人が配置されている場合もあるでしょう。

いずれにしても、プロジェクト内PMOの主な役割は「スムーズなプロジェクト進行のためにメンバーが仕事しやすい環境を整える」こと、そして「PMが重要な意思決定に注力できるよう雑多な管理業務を引き受け、PMの負担を軽減する」ことです。

しかしながら、中には意思決定もマネジメントも完璧にこなせる「スーパーPM」がいるからと、あえてPMOを置いていない企業もあります。周りの人たちも「PM、すごく大変そうだよね」と思いながらも、プロジェクトは問題なく進んでいるので任せきり。そんな経験がある方もいらっしゃるかもしれません。

このような場合、いくら進行は順調に見えてもPMに膨大なタスクが課せられ、本来時間をかけて熟考すべき重要な判断の時間が削られている可能性が高いです。

また、プロジェクトの多くは数カ月、数年単位と長期間に及ぶため、PMは目前のタスクに追われるのではなく、半年後、1年後といったもっと先を見据えて動く必要があります。目前のことを任せられるPMOを置くことで、プロジェクトはより力強く推進できるのです。

【事例】PMO不在が招いたチーム間の混乱

ベンダー企業のプロジェクト内PMOが力を発揮する典型的なシーンの1つに「チーム間の調整」があります。イメージを深めていただくために、PMOが設置されていなかった、とあるシステム開発プロジェクトで起きた事例を見てみましょう。

このプロジェクトはアプリ開発やUIデザイン、インフラ構築などさまざまなチームで構成されていました。通常、チーム間の連携や調整が必要な場合はPMを介してコミュニケーションを取るのが筋ですが、PMはプロジェクト進行に伴い多忙を極めていたのです。

その中で、各チームリーダーはこんなふうに考えていました。

  • アプリ開発チームリーダー
    「PMに相談してわざわざ時間を取るのは申し訳ないな」
  • UIデザインチームリーダー
    「チームリーダー同士で個別にやり取りした方が効率的では?」
  • インフラ構築チームリーダー
    「他チームの進捗が知りたいけれど、誰にどう切り出したら良いか分からない……」

そして、各々が自分の考えで動き出しました。アプリ開発チームのリーダーはUIデザインチームのリーダーと直接話してUIの仕様変更を決定。そして、インフラ構築チームは要望を誰に伝えることもなく、進捗を知る術がないまま時間が過ぎていったのです。

数週間後、インフラ構築チームから「上がってきたアプリケーションの仕様が最初に決まっていたものと違う。これでは想定していたインフラ環境が使えません……」という声が上がりました。インフラ構築チームのリーダーは「恐れていたことが起きた……」と落胆し、何も知らなかったPMは驚愕するばかり。

結局、この仕様変更はプロジェクト全体の計画に大きな影響を与えると判明し、大幅な手戻りが発生。プロジェクトは数週間遅延することとなりました。

「忙しいPMに負担をかけたくない」「より効率的な方法を」「聞く相手を間違えるくらいなら、聞かない方が良い」そんなふうに、それぞれ「良かれと思って」行動したわけですが、結果として重要な情報がプロジェクト全体に共有されなかったため、悪い状況に陥ってしまったのです。

この事例では3チームを取り上げましたが、実際のプロジェクトではもっと多くのチームやチーム間でこうした問題が日常茶飯事に起きています。PMが多忙ではなかったとしても、その全部に対応しようと思ったら、どんなに優秀な人でも捌ききれません。

では、もしこのプロジェクトにPMOがいたらどうなっていたでしょうか。チーム間の調整やプロジェクト内の課題の相談先が明確になり、チームリーダーたちは「自分たちだけで解決してしまおう」とは思わなかったでしょう。それに「これは誰に聞けば良い?」と迷うこともなかったのではないでしょうか。

PMOは、プロジェクト全体を俯瞰しつつ「この変更情報は全員に周知した方が良いですね」といった助言や「進捗を把握するため、スケジュール管理ツールを導入しましょうか」といった適切な提案を行うことができたはずです。

専門性の異なるチーム間では普段の業務での関わりも薄く、言葉1つの認識のズレが大きな問題に発展することがあります。そのため、チーム間のやり取りで決定した事項、プロジェクト全体に関わる重要な変更はPMOがいったん受け取り、皆が共通で理解できるドキュメントにまとめたり、会議など全体共有の場を設けたりして、周知を徹底することが非常に大切です。これにより、事例のような最悪な事態は避けることができます。

そしてPMOは、発生した問題と解決策の要点をPMへ報告することも忘れてはいけません。PMOが管理業務や報告を行うことで、PMは経営層への報告や顧客との関係構築といった本来業務に集中することができます。

ベンダー企業のプロジェクト内PMOが
押さえておきたいポイント

プロジェクト内PMOは、ある時はPMのサポート、またある時はチームや人と人との間に入り潤滑油のような役割を担うなど、プロジェクト全体を円滑に進めるための重要なポジションであることがお分かりいただけたかと思います。

中でもベンダー企業に属するPMOがよりハイレベルな仕事を目指すなら、意識すべきポイントがあります。それは、情報共有でも業務の指示でも「明確に伝える」ことです。

ベンダー企業のプロジェクトメンバーの多くはエンジニアです。私自身もエンジニア出身なのでよく分かるのですが、曖昧な表現は混乱の火種となりかねないのです。

エンジニアは「このシステムを開発するために、このタスクを●日で完了させる」というような明確な目的や工数、ゴールを常に意識して仕事をしています。例えば「これは良い感じでやってください」といった曖昧で不明瞭な指示では「なぜ? どのくらいの範囲や工数で?」と多くの疑問が生まれ、タスクの背景を推測する無駄な時間が発生します。

しかし「UI仕様を検討するため、Aさんは明日の11:00までに●●のデータを●●形式で用意して●●フォルダに格納してください」といった、不確実性のない明確かつ具体的なやり取りを心がければ、エンジニアは無駄なことに時間やパワーを取られず、パフォーマンスを最大限に発揮できるのです。

物事をストレートに言い切ることに抵抗感がある方もいるかもしれませんが、こうしたメンバーの特性にマッチしたコミュニケーションも、プロジェクトを成功に導くための効果的な方法なのです。

おわりに

今回は、プロジェクト内PMOの中でもベンダー企業に属するPMOに焦点を当てて解説しました。PMの負担を軽減し、プロジェクトの進行を妨げるさまざまな「壁」を取り除くPMOは、生産性向上、品質安定などに大きく貢献します。

もし、みなさんのプロジェクトで「PMが多忙すぎる」「誰に何を相談すべきか不明確」といった課題があるならば、プロジェクト内PMOの導入を検討するタイミングかもしれません。

次回は、事業会社に属するプロジェクト内PMOに迫ってみたいと思います。どうぞ、お楽しみに!

著者
甲州 潤 (こうしゅう じゅん)
株式会社office Root (オフィスルート) 代表取締役社長
国立高専卒業後、ソフトウェア開発企業でSEとして一連の開発業務を経験し、フリーランスに転身。国内大手SI企業の大規模プロジェクトに多数参画、優秀な人材がいても開発が失敗することに疑問を抱く。PMOとして活動すると多数プロジェクトを成功へ導き、企業との協業も増加。2020年法人化し企業課題と向き合う。【著書】『DX時代の最強PMOになる方法』(‎ビジネス教育出版社)
URL: https://www.office-root.com/become-excellent-pmo/

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