AI駆動開発で変わる開発スタイル:AI駆動開発概要とツールの紹介、求められるスキルとは

はじめに
クリエーションライン株式会社、取締役兼CTOの荒井 康宏です。本連載では、「AI駆動開発」というテーマで概要から主要ツール、実践内容、組織への影響、そして今後求められるエンジニアスキルに至るまで、さまざまな内容を紹介していきます。
AI、特に生成AIは、すでに私たちの生活や仕事に大きな影響を及ぼしており、その影響範囲は今後もさらに拡大していきます。読者の皆さんの周辺でもAIによる劇的な変化が起きていることかと思います。私自身も皆さんと同様にこの大きな潮流の真っただ中で日々過ごしており、仕事の進め方などにおいて以前には想像できなかったほどの変化が起きています。
本連載のテーマであるAI駆動開発もまた、決して「対岸の火事」ではなく、今まさに目の前にある「私事(わたくしごと)」といった存在になっているのです。
AI駆動開発とは
AI駆動開発については規格団体などによる明確な定義はありませんが、「アプリケーションやシステム開発のプロセス全体においてAIを中心にしながら開発を進める手法」と言えるでしょう。
実装・コーディングだけでなく、アプリケーション・システム開発のライフサイクル全体、つまり要件定義からUI設計、ソフトウェア設計、コーディング、テスト、リリースに至る各工程で、AIを中心に各プロセスを回していくという思想になります。これにより開発ライフサイクル全体を短縮し、プロダクトのリリースタイムの高速化を図るということを目的にしています。
AI駆動開発の効果
AI駆動開発の効果について、現状で厳密な測定資料などは存在しませんが、例えばGoogle社の場合には、2024年10月の公開記事で「コードの4分の1、つまり25%はAIで生成されている」としています。また、Anthropic社のCEOであるDario Amodei氏は、2024年末のPodcastのインタビューで「10ヶ月ほどで、AIにより生成されるコードは少なくとも90%に近づくのではないか」と予測しています。私自身の感覚としても、現在(2025年6月時点)でこの比率は90%に近づいていると考えています。
しかし、現状では効果が発揮される対象とそうではない「不向き」な対象があることも事実です。AI駆動開発に関する“現時点”での向き不向きを、下表で大まかに捉えてみます。
縦軸がシステムのレベル、横軸が開発の工程等です。黄色の部分がAI駆動開発に向いた工程になり、ここが広い範囲に及ぶほど“適している対象”となります。
しかし、例えば高品質が求められるシステム、基幹業務や社会インフラなどの開発においては生産性向上などには役立つものの、“現時点”ではまだ全面的にAIを使って開発することは難しいと思われます。一方で、PoCレベルの開発や社内システムなどについては、多くの工程でAIを活用できます。
総括すると、AI駆動開発の効果は開発対象のシステム・アプリケーションとAI駆動開発の適用対象範囲によって大きく異なるということです。ただし、近い将来、生成AI技術の進化と共にこの適用対象範囲が次第に広がってくることは確実と言えるでしょう。
AI駆動開発の主要ツール
AI駆動開発のためのツールは、2025年4月時点で185以上も存在し、この瞬間もその数は増え続けています。中でも特によく知られるのが「GitHub Copilot」や「Cursor」「Claude Code」などです。これらのツールに共通する特徴として「自然言語でのエージェントとの対話によるコーディングが可能」である点が挙げられます。
以下に、AI駆動開発に関連した主要ツール(上記3ツールを含む)をまとめてみました。
ツール名 | 概要 |
---|---|
Cursor | VSCodeをクローンし、多数のAI開発機能を搭載したIDE。Agent機能により対話ベースでのアプリケーション開発も可能に。Backgroud Agentsなどの機能追加により非同期の開発フローにも対応 |
GitHub Copilot | コード補完、チャット、Pull Requestの要略など様々な機能を搭載。日本国内でも多くの企業が導入している |
Windsurf | Windsurf社が提供するAI Agent型IDE。VScodeをクローンしてAIエージェント機能を追加。ユーザーとの対話履歴、リアルタイムのコード編集履歴、プロジェクト全体のコードを対象とした高度なメモリ構造などが特徴。公開されて1年未満のツールだが、一部の用途ではCursorに変わる新しい選択肢になりつつある |
Claude | Anthropicが提供するLLM環境。Artifacts機能で対話をしながら視覚的なコンテンツをリアルタイム生成。チームメンバーと共同でコンテンツを確認および編集することも可能 |
Claude Code | Anthropicが提供する開発用のCLI Agent。コードベースの高い解析力があり、高度な開発タスクを実施可能。日本でも急激に利用者数が増えている |
CodeRabbit | Gitプルリクエストのコードレビューと要約。行ごとのコード提案、差分レビュー、PRのサマリーを実現 |
v0 | 自然言語でUIを作成。ReactベースのUIコンポーネントを自動生成。React/Next.jsと互換性を持つ |
bolt.new | StackBlitz社が提供するサービス。AIを活用してフルスタックアプリケーションの生成から実行、デバッグまでをブラウザ上で完結できる。WebAssemblyベースの「WebContainer」技術によりブラウザ上でNode.js環境を実現 |
Devin | Cognition社が2024年12月10日に一般提供を開始した、完全自律型AIソフトウェアエンジニア。開発依頼をしておけば、AIが実際のソフトウェアエンジニアのように開発を進めてくれるというもの。月額500ドルから利用可能。日本でも利用者が急増 |
GEAR.indigo | 日本企業が開発したAI駆動開発ツール。開発ワークフロー全体を自動化する。要件定義、基本設計、詳細設計といったドキュメントを生成し、それを人がチェック&修正した後、また生成が行われるという流れが繰り返され、最終的にソースコードが生成される。ウォーターフォール型開発の流れを生成AIが支援しながら実施可能 |
ビジネス的に見ても、これらのツールの需要は拡大しており、その筆頭とも言えるCursorは設立からわずか2年ほどしか経過していないにも関わらず、従業員数20名余りで年間$100M(約150億円相当)の売り上げを達成しており、企業としての時価総額は1.5兆円とも言われています。 同社に対する関心、期待がいかに高いかを示しています(※これらは2025年6月12日時点の数字)。
AI駆動開発の実践
今回はCursorを用いた実際のAI駆動開発の手順を見ていきます。今回開発したいアプリケーションは以下となります。
このアプリケーションをCursorで開発してみましょう。
- ここに要件を記載していきます。重要なのは完全な“自然言語”で入力をしている点です。
実際に入力した要件:
- 社員食堂で従業員がお弁当を選ぶアプリケーションを作成してください。
- お弁当の種類は3種類です。
- お弁当の写真が表示されている部分をクリックすることでお弁当を選択できます。
- 社員番号が入力できるようにしておきます。
- 社員番号と部署名、お弁当を選択して青い注文ボタンを押すと、注文リストに社員番号と選択したお弁当がリストとして追加されます。
- 全体の合計金額と部署ごとの合計金額も表示されるようにしてください。
- リストには削除マークも入れておいてください。削除マークを押すと該当のリストが削除されます。
- その際にポップアップで「本当に削除しますか?」を表示してください。
- ダウンロードボタンを押すと、注文リストをCSVでダウンロードできます。
- CSVの結果にも部署ごとの合計金額と全体の合計金額も記載してください。
- 洋風、和風、中華風のお弁当の写真を貼り付けてください。弁当の料金は400円、500円、600円としてください。
- HTMLファイルの基本構造が作られてCSSファイルでスタイルが定義され、JavaScriptで機能が実装されます。
※Agent機能により、このような一連の対応が可能となったのは、ここ数ヶ月の話しです。以前はソースコードに個々の部分を指定してAIを使っていましたが、現在ではこのように一括した対応が可能となっています。
- しばらく待つと、完成したアプリケーションのUIが表示されます。
Cursorで新たなプロジェクトを作成し、“Agent”(ちなみに、Windsurfの場合は“Cascade”という名前です)をクリックして開きます。
このように、一切コードを書くことなく、CursorのAgentに自然言語で指示するだけで簡単なアプリケーションを作成できました。
続いて、このアプリケーションにちょっとした仕様変更を加えることにします。
- 下記のような変更指示を加えます。
社員情報の欄を、社員番号、社員名、部署名が入力できるようにしてください。部署名は選択式にして、マーケティング部、営業部、企画部、総務部、経営管理部にしてください。
- さらに、次のような変更指示を加えます。
日本語、英語、中国語の対応にしてください。言語選択は右上でセレクトボックスで選択できるようにしてください。
- 「Preview」ボタンを押すと、以下の修正済み画面が表示されます。指示通り、画面右上に言語選択のボックスが現れました。
- 英語を選択すると、次のように英語化された画面が表示されます。
少し前までは、このレベルのアプリケーションでも開発に2週間程度はかかり、さらに開発のためのコーディングやその後のアプリケーション修正にも人手による対応が必要でした。現状のバージョンでは、ここまでご紹介したように、わずか数分でコーディングすることなくアプリケーションを開発でき、完成したアプリケーションの変更も自然言語で簡単に指示できるようになりました。
AI駆動開発ツールの使い方(サンプル)
さらに、一連の開発工程に合わせて適用できるツールをまとめた例を以下に示します。
冒頭に“AI駆動開発の効果”の項で表に示したように、現段階では非機能やセキュリティのチェックなどはAIでカバーできない状況ですが、今後はこれらに加えてスケールするためのアーキテクチャーの設計、クラウド環境構築、自動テストなども含めて、対応できるAIエージェントが登場するものと思われます。その際のフローを下図に示します。
AI駆動開発で変わる開発スタイル
AI駆動開発により、開発スタイルも変わっていきます。
人の役割の変化:
「ソースコードの作成」から「AIへの指示・インプット」へ
これまでの開発、特にコーディングの工程では、人が仕様書を見ながらロジックを実装する必要がありました。そのため、ある意味“知的”労働ではあるものの、開発体制としては多くのメンバーを要していたのです。IT産業の根幹は、多くの人的リソースによって支えられてきました。
ソースコードの作成(コーディング)は人が行い、これを機械が解釈できる言語に変換する部分はコンパイラーが担っていました。コンパイル以降、実行されるバイナリが作られる部分は、人が関知する必要はありませんでした。
しかし、今後はアプリケーションを開発するためのコーディングもAIに任せることが可能となります。そのため人に求められるのは「AIへのインプットやフィードバックを作成する能力」になります。AIへのインプットは自然言語で出来るようになっているため「何が必要なのか」「どうしてそれが必要なのか」といった点、さらにビジネス的な背景や契約事項などについて、正しくAIに伝えることを求められるようになります。
以前の開発工程の中で、コンパイル以降の動きには関わる必要がなかったように、今後はAIがどのようにコーディングするのかという動きについては人が関わる必要がなくなるため、これまでのソースコードに対して、将来の(AI駆動開発における)ソースコードはAIへのインプットやフィードバックを整理したものとなるでしょう。
求められるエンジニアスキル
開発スタイルの変化に伴い、求められるエンジニアのスキルやマインドセットも変わってきます。この変化は、ある意味“産業革命”のようなものであり、これまでは1行1行を人が目で見ながら確認して“愛情や情熱”をかけてコーディングしていたものが、AIという強力な自動生成マシンの登場により高速かつ大量にこなせるようになったのです。
そのため、これからのエンジニアには「AIを使い協業しながら開発を進める」というマインドセットが必須になります。近い将来は90%以上、さらにその先は100%のコーディングがAIにより可能となることを見据えて、この部分はAIに任せてしまうことが得策と言えるのです。
このマインドセットを持った上で必要となるスキルとその概要について、簡単に表にまとめました。
必要となるスキル | 概要 |
---|---|
AIを利用した開発パイプラインの設計 | AI開発ツールは1つだけで全工程をカバーできるわけではないため、それぞれの向き不向きに合わせて最適な組み合わせを考える必要がある。どのような開発プロセスを採用し、どのAI開発ツールを適用するのかといった点を開発ワークフローとしてまとめるという対応 |
AI Suiteの選択・設計 (AI駆動開発のプラットフォームエンジニアリング) |
様々なツールの中からどのAI開発ツールを選択し、どの機能をプロセス内のどこで使用するかといった見極め、環境を整備する力 |
AIができない領域の対応方針の決定 (非機能テスト、品質設計) |
AI開発ツールが何を実現でき、何ができないかを見極め、対応できない部分は人が対応するなどの方針を決定する。非機能テストや品質設計も含まれる |
開発者とAIのコラボレーション方法 (コンテキストの設計) |
AIに対する要件と期待する振舞い、前提・制約など必要十分なインプットを整理してAIに与える力(広義の「コンテキストエンジニアリング」) |
これらに加えて必要となる、いくつかのスキルについて以下に示します。
LLMの特性とプロンプトエンジニアリングに関する理解
生成AIは人とは違い、非常に難しく思われる質問に回答できる一方で、幼稚園児が解けるような問題が解けないといった状況も発生します。この背景には人とは異なるパターン認識をしているなど、いくつか要因はありますが、いずれにしても生成AIの特性に合わせた指示の方法を理解することが必要となってきます。このような「プロンプトエンジニアリング」という言葉で知られるテクニックは、今後不可欠なエンジニアスキルとなるでしょう。
再現性に関する理解と対応
再現性についても理解が必要となります。ChatGPTを使用すると分かりますが、生成AIは確率的なモデルであり、同じプロンプトでも実行するたびに生成される結果が異なります(=ばらつき/ゆらぎ)。このばらつきによりAIエージェントの挙動も大きく変わるため、ばらつきをコントロールしてコードの品質と開発生産性を上げていく上では、ルールの整備が重要となります(Cursorの場合は「CursorRules」として指定します)。
再現性を高めるための1つのテクニックとして、必須事項やタスクを明確化するという方法があります。ソフトウェアの要件定義の段階で、同時に生成AIに「どう振舞って欲しいか」という点を定義し、ドキュメント化するという対応が今後重要になります。
まとめ
今回は「AI駆動開発」について駆け足で見てきました。これからのエンジニアに求められるのは、単純なコーディングのスキル・経験ではなく、要件に合わせたAIツールの組み合わせなどを決定するパイプラインや、最も有効となるプロンプトを作成できる専門家になるためのスキルです。加えて目まぐるしく変化するテクノロジーに素早く追従する必要もあるため、現時点での固定的な知識だけでなく、新しい技術やトレンドを素早く取り入れられる柔軟な姿勢も求められてきます。
AIで対応できる仕事が人の手から奪われていくことで「自分の仕事がなくなってしまうのでは」という懸念をお持ちの方、特にエンジニアの方もいらっしゃるかも知れませんが、今回紹介したように一緒くたにエンジニアが不要になるのではなく、役割が大きく変化するということになるでしょう。
その意味では「AI Ready」なエンジニアを目指すことが、現状で最も有効な判断となるのではないかと思います。しかし、裏返せばこの変化についていけないエンジニアは、その存在意義が次第に希薄になっていく可能性もあります。
今回は、AI駆動開発におけるごく一部の内容を紹介しましたが、この記事が何らかの意味で皆さんのお役に立てばと願っております。
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