連載 [第58回] :
  月刊Linux Foundationウォッチ

CNCFが「Kubernetes」誕生10周年を迎えた2024年に公開した「CNCF アニュアルレポート 2024」の日本語版を読み解く

2025年7月31日(木)
吉田 行男

こんにちは、吉田です。今回は、Cloud Native Computing Foundation(CNCF)が公開した「CNCF アニュアルレポート 2024」の日本語版について紹介します。

【参照】CNCF アニュアル レポート 2024 新たな高みへ挑む! 日本語版を公開
https://www.linuxfoundation.jp/publications/2025/07/cncf-annual-report-2024-jp/

2014年6月6日の歴史的なコミットと、2014年6月10日開催の「DockerCon 2014」におけるGoogleのエンジニアEric Brewer氏の基調講演でのプロジェクト発表から始まったKubernetesが、2024年6月にその誕生から10年を迎えました。

それから10年、Kubernetesが44か国から8,000社以上の企業、88,000人以上のコントリビューターを有する、これまでで最大のオープンソースプロジェクトの1つに成長しました。

このレポートではKubernetesを中心に活動を続けてきたCNCFのさまざまな取り組みが紹介されていますが、その中から、特徴的な取り組みを紹介したいと思います。

CNCFの意義とその活動

2015年に設立されたCNCFは、Linux Foundationのプロジェクトの1つとしてクラウドネイティブ技術の構築と普及を推進してきました。日本でもCNCFの活動は活発化しており、2023年には日本初の公式コミュニティである「Cloud Native Community Japan(CNCJ)」が設立されました。

CNCFは日本の技術者がグローバルコミュニティで活躍できる場を提供し、国内におけるクラウドネイティブの普及促進とOSSへの貢献を促すことを目指しています。また、2025年6月には「KubeCon+CloudNativeCon Japan」が初めて開催されるなど、日本国内でのイベント開催も積極的に行われています。

さて、CNCFはこの10年に200以上のプロジェクトが189の国々に広がり、世界中で27万人を超えるコントリビューターが関わる中、クラウドネイティブの勢いとユースケースはかつてない速度で拡大し続けています。

また、CNCFには世界最大のパブリッククラウドおよびプライベートクラウド企業をはじめ、世界で最も革新的なソフトウェア企業やエンドユーザー組織を含む720以上の参加組織があり、これらの主要組織から、今後何年にもわたるクラウドネイティブコンピューティングの発展と持続可能性に対する強いコミットメントを示しています。

「Kubestronautプログラム」の開始

2024年11月、CNCFはKubernetesおよびオープンソースのクラウドネイティブ技術の成長を促進するために「Kubestronautプログラム」を開始しました。このプログラムは、クラウドネイティブの専門家が成長するためのトレーニングや学習リソース、ネットワーキングの機会、そしてプロフェッショナルなスキル習得を提供するもので、CNCFが提供するKubernetes関連の5つの認定資格(CKA、CKAD、CKS、KCNA、KCSA)をすべて取得し、維持しているエンジニアをKubestronautと認定しています。

このKubestronaut認定者は、現在100ヶ国で1,800以上のメンバーにまで成長しており、アジアからも280人が認定されています。そのうち、日本からは63人が認定されており、中国の29人を上回っています。

CNCFの教育プログラムは引き続き成長を続けており、2024年には以下のトレーニングコースと試験が大きな注目を集めました。

CNCFにおけるプロジェクトの状況

CNCFでは、その成熟度によってプロジェクトを「SANDBOX」「INCUBATING」「GRADUATED」の3種類に分類しています。2024年を通じて、CNCFは30のGRADUATEDプロジェクト、34のINCUBATINGプロジェクト、129のSANDBOXプロジェクトをホストしました。

以下に、CNCFのプロジェクト数とそれぞれの分類の推移を示します。

2024年には27の新規プロジェクトを受け入れ、その内訳はINCUBATINGプロジェクト:1、SANDBOXプロジェクト:26となっています。また、成熟度が高まるにつれて、それぞれの分類で移動が発生します。2024年には6つのプロジェクトがGRADUATED段階に、4つのプロジェクトがINCUBATING段階へ移行しました。

コミュニティの状況

・KUBERNETES COMMUNITY DAYS(KCD)
KCD(「Kubernetes Community Days」)は採用者や技術者が集まり、学び、協力し、ネットワークを築くためにコミュニティが主催する世界規模のイベントで、Kubernetesおよびクラウドネイティブ技術の普及と改善を推進することを目的としています。2024年には27ヶ国で35回開催され、10,000人以上のエンジニアが参加しました。

・CLOUD NATIVE COMMUNITY GROUPS(CNCGS)
「CNCGs」(community.cncf.io)は、KCDと同様に採用者や技術者を集める世界規模のクラウドネイティブ チャプターです。これらのグループは対面、バーチャル、またはハイブリッドのミートアップイベント規模で、Kubernetesおよびクラウドネイティブ技術に関する学習、協力、ネットワーキングを促進しています。

メンタリングに関するプログラム

CNCFはメンタリングに関するいくつかの興味深いプログラムがあります。「LFXメンタープログラム」「Google Summer of Code(GSoC)」「Outreachy」など、さまざまなメンタリングおよびインターンシップの機会を通じて、145人以上の個人を支援してきました。

2020年以降は、LFXメンタープログラムに参加した14名のメンティーがCNCFプロジェクトのメンテナーとして活躍しています。このように、継続的に開発者を育成することの重要性に関する取り組みも、OSSプロジェクトの持続可能性について大きな示唆を与えるものだと思います。

最後に

冒頭でも紹介しましたが、本年6月にお台場で「KubeCon+CloudNativeCon Japan 2025」が開催されました。高額な参加費用にも関わらず1,500枚の参加チケットが完売し、スポンサー枠もすべて埋まっていました。日本でもこれらの技術を重視し、コミュニティ内での存在感を高めることができたのはと思います。既に来年の開催も決定しており、今年よりも盛大なイベントにしたいとの意向があるようです。

日本でもようやく盛り上がりつつあるクラウドネイティブ技術について、CNCFがその誕生から10年間にどのような成長をしたか、また、なぜ成長したのかを知るために、本レポートは非常に有用です。興味を持たれた方は、ぜひご一読をお勧めします。

2000年頃からメーカー系SIerにて、Linux/OSSのビジネス推進、技術検証を実施、OSS全般の活用を目指したビジネスの立ち上げに従事。また、社内のみならず、講演執筆活動を社外でも積極的にOSSの普及活動を実施してきた。2019年より独立し、オープンソースの活用支援やコンプライアンス管理の社内フローの構築支援を実施している。

連載バックナンバー

Think ITメルマガ会員登録受付中

Think ITでは、技術情報が詰まったメールマガジン「Think IT Weekly」の配信サービスを提供しています。メルマガ会員登録を済ませれば、メルマガだけでなく、さまざまな限定特典を入手できるようになります。

Think ITメルマガ会員のサービス内容を見る

他にもこの記事が読まれています