KubeCon Europe 2025、LF傘下になったOpenInfrastructure FoundationのJonathan Bryce氏にインタビュー

2025年7月9日(水)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
KubeCon EU 2025、2025年3月にLF傘下になったOpenInfrastructure FoundationのJonathan Bryce氏にインタビューを実施した。

OpenStackやKata ContainerをホストするOpenInfrastructure FoundationがThe Linux Foundation(LF)の配下に合流するというニュースが2025年3月に配信された。これはオープンソースに関わっている人間なら「ついに来たか」という内容だったろう。今回はOpenInfrastructure FoundationのエグゼクティブディレクターであるJonathan Bryce氏にインタビューを行った。ロンドンで開催されたKubeCon Europeにおいてこの変化はすでに現れており、Bryce氏はキーノートで長年のOpenStackユーザーであるCERNのRicardo Rocha氏と並んで登壇し、メディアとアナリスト向けのブリーフィングでもLFのJim Zemlin氏、CNCFのChris Aniszczyk氏と並んでQ&Aに登場するなど、存在感を示していた。

CERNのRicardo Rocha氏と登壇したJonathan Bryce氏

CERNのRicardo Rocha氏と登壇したJonathan Bryce氏

今回はThe OpenInfrastructure FoundationがLFのプロジェクトとして参加するというニュースが発表されてから最初の大きなイベントだったわけですが、その背景を教えてください。

Bryce:我々は仮想マシンのインフラストラクチャーをオープンソースで構築したいという当初のゴールから組織として他のオープンソースプロジェクト、Kata Containerなども招き入れてコラボレーションしてきました。LFの理念や活動には非常に近いものを感じていましたので、我々の選択肢としてLFに参加するというのはそれほど難しいものではありませんでした。このまま独立の組織として活動するのか、それとも参加することでマーケティングなどの組織や活動を活用する方向に行くのか、という話です。

プレスブリーフィングに参加したBryce氏(中央)。左はZemlin氏、右はAniszczyk氏

プレスブリーフィングに参加したBryce氏(中央)。左はZemlin氏、右はAniszczyk氏

それは外部から見ていても自然な流れに見えましたね。ところでKata Containerや他のプロジェクトにとってみると、OpenInfrastructure Foundationの配下ではなくLFやCNCFのプロジェクトとカバーする領域が重なるものがあると思います。そういうプロジェクトにとってこのままOpenInfrastructure Foundationに残るのか、LFやCNCFの配下で活動するのかというのは選択しなければいけないタイミングなのでは?

Bryce:実際にはそれぞれのプロジェクトが開発しているソフトウェアのポジショニングというよりも、そのコミュニティがどう判断するのか? ということだと思います。より具体的に言えば開発を行っているエンジニアが所属している組織とも関係しますね。

Kata Containerについて言えば、MicrosoftのAzureの中でセキュアなコンテナランタイムとして活用されていますし、Alibaba Cloudの中でもKata Containerは使われています。彼らはどちらもユーザーでもあり、かつデベロッパーとしてKata Containerの開発を行っています。そのプロジェクトがシステムの中で使われ、コミュニティが機能しているのであれば、その外側で組織のあり方を変化させる必要はないと思いますね。すべてはコミュニティが決めることであるべきです。

パンデミックが収まってから世界中でIT関連のイベントやカンファレンスが元通りになってきました。OpenInfrastructure Foundationもカンファレンスを復活させましたし、CNCFも北米、ヨーロッパ、そして中国、日本とKubeConを開催しています。OpenInfrastructure Foundationとして、中国についてはこれからどうしていこうと思っていますか?

Bryce:中国はこれまでもこれからも大事な場所であることには変わりありません。多くのエンジニアがオープンソースに貢献していますし、活発なコミュニティ活動が持続しています。いつも中国に行く時は楽しい経験ですね。アメリカでは見たことのないさまざまなユースケースがありますし、これからも発展していくと思います。

インタビューに応えたJonathan Bryce氏

インタビューに応えたJonathan Bryce氏

香港で行われるKubeCon Chinaにも参加する予定ですか?

Bryce:そうです。その次の週のKubeCon Japanにも行く予定ですのでとても楽しみにしています。

OpenInfrastructure Foundationとしてのチャレンジはなんですか?

Bryce:これまでと変わらずにプロジェクトが安定して前進することですね。それぞれの国が行う法規制によってテクノロジーが規制されたりすることは起こるでしょうが、それによってフラグメンテーションが起こらないようにすることですね。他にもさまざまな組織とコラボレーションを行っていきたいと考えています。特にヨーロッパのCRA(Cyber Resilience Act、サイバーレジリエンス法)のような規制については、政策立案者とも話し合いを持つことでオープンソースのイノベーションが止まらないようにすることを続けていきたいと思っています。

最後に現在のアメリカの政権が行っているさまざまな政策について多くの業界人が心配をしていると思いますが、それについてのコメントは? 言いたくなければ言わなくても大丈夫ですよ(笑)。

Bryce:いや、聞いてくれてもいいですよ。多くの人が心配していることですから。今の政権はアメリカを最優先することを行っていると思いますが、実際には多くの国や組織との協調を妨害しているとも言えると思います。知らない人から見れば、LinuxもOpenStackもアメリカのソフトウェアと思われてしまいますが、実際には多くの海外のエンジニア、組織が協力して開発を行っているわけです。そのようなグローバルな協力関係を妨害することは正しくないと思いますね。

日本ではまだオープンソースは無料のソフトウェア、でもサポートは誰がしてくれるのかわからないというのが多くの企業の経営層の認識だと思います。それを変えるためには何をしたらいいんでしょうね?

Bryce:そうですね。時間はかかりますが、啓蒙を続けていくことだと思います。オープンソースソフトウェアの価値については、まったく別の観点から言えば、多くのサイバー犯罪のターゲットになっているということを考えればオープンソースソフトウェアが実装されているシステムが大きな価値を生み出しているからこそ、そういう犯罪者に狙われるということも言えると思いますね。そのぐらい価値を生み出しているソフトウェアがコミュニティから生み出されていることを理解すれば、単に消費者のままでいるよりもコミュニティを支援する方向になっていくべきだと思います。

短い時間の中で率直に質問に応えてくれたJonathan Bryce氏だったが、トランプ政権に関する質問にも「多くの人が心配しているし、我々もこれから何が起こるのかを注視している」と率直に答えてくれたのが印象的だった。LF配下になったことでこれまで以上にカンファレンスなどにおいてはシナジーが生み出されていくことだろう。

ロンドンではOpenInfrastructure FoundationのCOOであるMark Collier氏とも再会し、「メディアの立場からはKubeConとOpenInfra Summitが同じ週に同じ場所で開催してくれると助かる」と話したところ「週の前半がOpenInfra Summitで後半がKubeCon? それはいいアイデアかもね。他にも同じことを言っている人がいたよ」というコメントをくれた。よりアクティブになっていくであろうOpenInfrastructure Foundationのこれからの動きに期待したい。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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