LF Research・COSSA・Serenaが商用OSSの財務的妥当性を評価したレポート「2025年の商用オープンソースの現状」を公開

こんにちは、吉田です。今回は、LF Research、COSSA(Commercial Open Source Startup Alliance)、Serenaが協力し、商用オープンソース ソフトウェアの財務的妥当性を評価したレポート「2025年の商用オープンソースの現状」が公開されたので、その内容を紹介します。
このレポートでは「オープンソース」をOSI承認ライセンス下にあるものだけではなく、AI分野のオープンウェイト、あるいは独自機能と並んで意味のあるオープンソースコンポーネントを備えた製品など少し拡張して定義しており、これらの公開アクセス可能なソースコードに依存する製品を提供する企業を対象としています。
【参照】2025年の商用オープンソースの現状
https://www.linuxfoundation.jp/wp-content/uploads/2025/09/lfr_serena_capital_report_082225b-j.pdf
COSS(商用オープンソース)の投資規模と成長性
2019年から2024年までの5年間で、年間約250件のVC(ベンチャーキャピタル)取引が発生し、平均90億ドルの資金調達がなされています。その中でも、特に2024年は264億ドルの調達を達成し、ソフトウェア分野のVC投資の4.5%を占める規模になりました。投資分野としてAI分野が大きくDatabricks(95億ドル)、xAI(110億ドル)など、AI分野でのメガラウンドが目立っています。
米国中心のエコシステム
COSS企業はソフトウェア業界の33%に比べて、米国に本社を持つ割合が65%と2倍になっています。これは、米国が商用オープンソースのイノベーションの主要な拠点になっていることの証左であるように思います。これに比べて欧州は20%と、ソフトウェア業界全体のシェア25%に肩を並べる程度に成長しているように見えます。一方で、アジアはソフトウェア業界全体のシェア27.5%に比べて7.5%とはるかに低く、まだまだ採用は進んでいません。
COSS企業の資金調達とExitの優位性
ほとんどのCOSS企業は、最初のリポジトリが公開される前にサービスを開始しているという事実が判明しました。また、クローズドソース企業よりも高い評価額でより早く資金調達ができています。また、これらCOSS企業の資金調達ラウンドは拡大傾向にあり、VC全体の傾向をそのまま反映しています。
EXIT戦略も現実的で、VCから資金調達した企業の12%がM&AまたはIPO段階に達しており、IPO時の評価額は13億ドル(対照群は1.71億ドル)、M&A時は4.82億ドル(対照群は0.34億ドル)と非常に良い結果が出ています。
コミュニティの健全性と企業価値の相関
成功するCOSS企業には2つの目標があります。1つ目は「オープンソースプロジェクトを中心に、活気あるオープンで本物のコミュニティを育成すること」です。2つ目は「それとともに企業は商業化に向けた規律ある明確な計画を策定する」ことです。このレポートでは、プロジェクトの健全性を図るために「OpenSSFのCriticality Score」を採用しています。Criticality Scoreはプロジェクトの普及度、技術スタックにおける中心性、コラボレーションのレベルといったコミュニティのシグナルから導出される複合指標です。これらの測定項目には以下が含まれます。
- プロジェクトの年数
- 最終更新からの経過時間
- 個々の貢献者の数
- 貢献者が所属する個々の組織の数
- コミット頻度
- 直近のリリース数
- クローズされたイシューの数
- 更新されたイシューの数
- イシューへのコメント頻度
- 依存プロジェクトの数
分析の結果「コミュニティの健全性」と「財務的健全性」には、直接的な正の相関関係があることが分かりました。より健全で価値の高いオープンソースコミュニティを持つ企業は、より高い評価額とより大きな投資を得ています。企業価値とコミュニティ価値は本質的に結びついていることが証明されました。また、それは時間の経過とともに関係性が強く傾向があることが分かりました。健全なコミュニティは資金調達を容易にし、それが企業によるコミュニティへのさらなる投資を可能にし、結果として将来の価値を牽引することになります。投資家にとって、これは後期段階の取引においてコミュニティの健全性が評価上さらに重要な要素となることを意味しています。
一般的には、ベンチャーキャピタルからの資金が流入するにつれ、短期的な収益化圧力による変化がコミュニティを疎外するリスクがあると指摘する声もありますが、このレポートの分析によるとパッケージダウンロード数が7倍に増加し、GitHub Starsが60%増加するなど、COSS企業がベンチャー資金調達後にコミュニティへの関心が著しく拡大することを示しています。
また、貢献者数が27%増加、新規貢献組織が2つ追加、リリース頻度が52%増加するなどという効果も出ています。これは、資金が増えることでプロジェクトは開発、テスト、デプロイにリソースをより多く割くことができ、イテレーションのサイクルが速くなり、新機能やバグ修正の配信頻度が高まります。この加速されたリリースペースはユーザーに最新かつ安定したソフトウェアを提供するだけでなく、プロジェクトの活力と対応力を示し、コミュニティの関与をさらに深めることになっていると分析しています。
まとめ
このようなCOSS企業に関するデータを集めたレポートはあまり存在しないので、とても有意義なものだと思います。まだまだ、日本でオープンソース分野においてVCから資金調達することは一般的ではないと思うので、ぜひ参考にしてみると良いのではと思います。
連載バックナンバー
Think ITメルマガ会員登録受付中
全文検索エンジンによるおすすめ記事
- 「CNCF 技術展望レーダー」日本語版を公開 ークラウドネイティブ技術の利用動向をエンジニア対象に調査、ほか
- CNCFが「Kubernetes」誕生10周年を迎えた2024年に公開した「CNCF アニュアルレポート 2024」の日本語版を読み解く
- OpenSSFを拡大・支援するため1,000万ドルの新規投資を調達、「The 2021 Open Source Jobs Report」を公開、ほか
- 「Open Source Summit Europe」で、LFがTerraformの代替となる新プロジェクト「OpenTofu」を発表
- Open SSFがOSSのセキュリティ体制を改善する「Alpha-Omega Project」を発表。マイクロソフトとグーグルが主体的に参画、ほか
- LF傘下のFINOSがOSFFで金融サービス業界におけるOSS関連の調査レポート「The 2022 State of Open Source in Financial Services」を公開
- LFがオープンソースにおけるDE&I(多様性・公正性・包摂)に関する調査レポートを公開、ほか
- CNCFとLF Researchがクラウドネイティブ技術の採用状況やトレンドを調査したレポート「Cloud Native 2024」を公開
- LFがオープンソース活用等の計画を策定する「Open Source Congress」のレポートとCI/CDの最新状況に関するレポートを公開
- LF Researchが、オープンソースの動向等に関するグローバルな調査レポート「Global Spotlight 2023」日本語版を公開